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立ったままリーロンの話を聴くマリアに、リーロンはポンポンと己の太腿を叩く。“座れ”ということらしい。マリアは気が引けてしまって遠慮したかったが、どうせ拒否しても魔法を使って座らせられるのだからとそこに腰かけた。
「ねぇ、リヒテンシュタン魔法学校ってどんなところ?」
「調べて無ぇのか?」
「恥ずかしながら殆ど、全くと言っていいほど」
思えば婚約の準備などで忙しすぎてレキャットがくれた学校の資料によく目を通していなかった。受験日と五つ寮があることは知っているが、逆に言うとそれ以外記憶に残っていない。
「……リヒテンシュタン魔法学校が魔法を学ぶ場所であることは知ってるよな?」
呆れながらも教えてくれるリーロンは、やはり面倒見が良い気がする。マリアは頷き、続きを黙って聴く。
「生徒は入学するとまず五つの寮に分けられる。
勇敢を謳った【スターライトロジャー寮】。
勤勉を謳った【ブルーフランベルッジ寮】。
親愛を謳った【ベアアプフェル寮】。
高尚を謳った【ホワイティローズ寮】。
そして自由を謳った【ナイトメアジャッジ寮】」
「リーロンはどの寮なの?」
「俺は【ホワイティローズ寮】だ。てめぇもこの寮に入れ。少なくとも俺が寮長をしてる間は、お前をこき使える」
「選択制なの?」
「いや。“千里眼”を持ってるとされる水晶が選ぶ」
「じゃあ無理じゃん。“高尚”な精神なんて持ってないよ」
マリアは思わず肩を落とした。確かにリーロンに“高尚”の二文字は似合うが、マリアには縁遠いものである。にしても誰かに選ばれて寮が決められるなんて、まるで某魔法学校の帽子のようだとマリアはワクワクする。
「その水晶と、リーロンはどんな会話をした?」
「何言ってんだ……? 水晶が喋るわけ無ぇだろ」
「あ、はい。そっすね」
ちょっと恥ずかしい気持ちで俯けば、リーロンは続ける。
「水晶が寮を決めた時に、一緒に杖が渡される。水晶が創り出した杖が、そいつの物になる」
「杖……? アタシ、魔法を使う時に杖を使ったことなんて無いけれど……リーロンも使ってないよね……?」
「杖は魔法を使う時の補助道具だ。誰も彼もがお前みたいに好き勝手に魔法を連発できるんじゃねぇんだよ」
「もしかしてアタシ若干ディスられてます?」
「杖は心臓に宿る。だからアイン達も杖を持ってる。使わなくても問題無ぇから使って無ぇだけだ」
「スルーされた……皆持ってるってことは、リーロンにも杖があるの?」
ワクワクと期待を込めて彼を見上げれば、リーロンはちょっと黙った後に真っ直ぐ腕を伸ばした。次の瞬間、その腕にはトランプのスートと王冠をモチーフにしたような形状が杖が現れて、マリアはおぉと声をこぼす。思ったよりも本格的かつ豪奢な杖で、拍子抜けした。たしかにこれは日々振り回すのは邪魔な気がする。ステッキぐらいの長さがあるから、持ち歩くのに不便だ。リーロンが普段杖を外に出しておかない理由がわかった。
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