18話:白皮の大蛇は、地母神の母に恋している

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 通常ならば、神である母が死ねることはなかった。だがジラソライトが彼女に力を貸した。ジラソライトは命を司る神であり、神にも“死”という概念を与え、同時に“輪廻”を創り出すことで死んだ魂を別の肉体に移す術を生み出した。母はそれを利用して、神としての魂を捨てた。  魂を失ったその身体は“方舟”に回収されてしまった。残されたのは輪廻(りんね)の輪で転生をした、“梦視侘(ゆめみた)聖愛(まりあ)”という少女だけ。俺はすぐに彼女が生きるための世界を用意した。マザーの身体で作られた空間を【基本世界】と呼ぶのなら、【平行世界】と呼ぶべき魔法の無いその世界に、彼女が生まれるようにも仕向けた。  人の身にまで堕ちた母、これ程都合の良いこともない。彼女は死ぬ度にジラソライトの手によって同じ魂のまま輪廻の輪を巡りまた“マリア”として生まれ落ちる。それは【基本世界】の事もあればそれから外れ【平行世界】であることもある。しかし、生きて(・・・)いた。  そんな母を——聖母と謳われたマリアを俺はいつまでも見ている。見守って(・・・・)いるんじゃあ無い。虎視眈々と、彼女が俺のものになる日を狙って(・・・)いるのだ。  何度目かの転生を繰り返した“マリア”は今日も生きている。親を捨て姓を捨てた彼女の中から母の面影が見えることは少ない。“梦視侘聖愛”の面影が時々チラリと姿を現す程度である。  それでいい。今はそれでいい。もう中に潜り込むことは出来たのだ。あとはゆっくりと毒で溶かすように侵食していけばいい。  朝、目覚めたマリアは鏡を見る。彼女は鏡を見て、そこに映る自分が自分であるという認識が持てないらしい。“梦視侘聖愛”の人格が戻ってきていないから当然である。  “梦視侘聖愛”は、良い女だった。沢山の愛を与え、望まれるがままに偶像(アイドル)として振舞った彼女は母によく似ていた。似ていなかったのは精神的にとても弱かったことぐらい。凡才に苦しみ弟に嫉妬し気が狂って最後は自死した。  否、きっと母も本当はこれぐらい精神が弱かったのだろう。それでも“母親(マザー)”でなくてはいけなかったからそれを偽って隠していただけだろう。恋は盲目、俺はそれに気付けて居なかった。母の最初の転生、“梦視侘聖愛”の人生を見て理解した。この女は、実際は高嶺の花なんかじゃなかった。それなら、俺にだって手にすることは出来る。  鏡を見ていたマリアはベッドに横になる()を振り返る。サラリと彼女の白金(プラチナ)の髪が揺れた。
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