18話:白皮の大蛇は、地母神の母に恋している

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「今日は随分大きいんじゃない? しかも実体化してるなんて珍しい。何かあったの? リコリス(・・・・)」  名前を呼ばれて、二三(にさん)瞬きをする。マリアは肩を竦めて「黙りさんは相変わらずね」と呆れた。そしてベッドに座ると、6mの巨躯でベッドと部屋の中を這いずる俺の方に手を伸ばし顎下を撫でた。これだけの大蛇を目の前にしても、畏れる様子は一切無い。  “リコリス”。それはマリアが俺に付けた名前だった。名前を教えろと迫られ、(だんま)りをしていれば勝手に『じゃあリコリスね』と名をつけられた。この娘の名付け癖は“梦視侘聖愛”時代から相変わらずだ。マザーで在った時に生まれたきた子供に名前をつけていたから、その習慣が残っているのだろう。“名前を付ける”という行為がどれだけ危険なものかも知らないで、彼女は名前を付け続ける。 「リコリス、ついに今日は試験日よ。リヒテンシュタン魔法学校に入学するために必要な、大切な試験」  知っている。そのために彼女が勉強していたのを彼女の身体に同化しながら眺めていた。大抵は退屈になって眠ってしまったが。 「応援しててね? 実技試験で必要(・・)になったら、アナタのことを呼ぶから。そしたらすぐに来てね? 勿論アタシに狼茄子(ベラドンナ)唐菖蒲(グラジオラス)を取り出している暇があれば、アナタは眠っていて構わないから」  彼女は一方的に告げ、そして俺の鼻間板の辺りにキスをした。ちょうどそのタイミングでメリンダとかいう侍女が部屋をノックするから、俺はするりと彼女の身体に戻る。その姿と身体に中に存在している姿が皮膚に映るので、マリアは“皮膚の中に住んでいる”と思っているようだが、実際は彼女の身体に魔術的に同化していると言った方が正しい。皮膚に姿が見えるのはその魔術が使用されているという証であり、本来この魔術を使おうとする者は被術者に見つからないように背中などの見えないところに隠れる。しかしこの魔術が古代魔術でありその存在を知っているものがそもそも殆ど現存していないことと、マリアが俺の存在に最早疑問すら抱いていないので、俺は堂々と彼女の前に姿を現していた。 「おはようございますマリア様! いよいよ今日ですね!」 「本当にね。ドキドキしてるわ、うまくいくかしら」 「うまくいかなかったらメリンダがなんとかしますよ! マリア様はのびのびと、思う存分今までの成果を生かしてきてください!」 「ありがとうメリー。今日もよろしくね」 「はい!!」  メリンダという名の侍女はマリアのための寝起きの顔を濯ぐお湯入りの洗面器と目覚めの一杯を室内のコーヒーテーブルに置くと一度引っ込み、ソファーに移動し顔を清めてからティーカップに手を付けたマリアの前にいそいそと何かを持ってきてテーブルに置いた。 
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