18話:白皮の大蛇は、地母神の母に恋している

4/7
前へ
/77ページ
次へ
「これは?」  不思議がるマリアに、メリンダは嬉しそうに「開けてみてください」と求める。ネグリジェの袖の下からそれを見れば、どうやらプレゼントボックスのようだった。マリアは不思議がりながらも、言われるがままにラッピングのリボンを解きボックスを開く。そして中から現れたものに「わぁ……!」と短く声を零した。  それは少女向けのワンピースのようだった。皺一つ無い布地は黒一色で、その中に赤いリボンが結ばれて印象的である。マリアが箱から取り出してみれば、膝丈ほどのスカートはひらひらと軽やかで裾に豪奢にならない程度のフリルがあしらわれていた。簡素で一見地味だが、マリアの好きなフリルもリボンもあるこのワンピース。マリアは踊るようにソファーから立ち上がり鏡の前で自分の身体にそのワンピースを当ててみる。鏡に映るマリアの姿は愛らしい。 「すごい……! 可愛い! しかも可愛いのに華美過ぎないから受験を受けるのにも良い服ね……!」 「でしょう? マリア様のために用意させていただきました!」 「メリーが用意してくれたの?」 「はい! ぜひ今日の入学試験に着て行ってほしいと思いまして。  メリンダは応援することしかできません。ですがマリア様がどんな道を征くとしてもお供します。このワンピースは、そんなメリンダの気持ちの表れです。よければでいいので、今日のお洋服はこれにしていただけませんか……?」 「勿論よ! そう言ってもらえなければアタシが言ってた! 本当に素敵なワンピース……これがアタシのためにメリーが用意してくれたって考えるだけで幸せ……!」  マリアは嬉しくて堪らないと言いたげで、鏡の前ではしゃいでいた。そんなマリアを見るメリンダの表情と言ったら!  歓喜に満ちた笑みで、今すぐにでも両膝を地面に着き指を組んで祈りだしそうなほど恍惚としていた。この女はマリアを一人の女として愛している。同時に唯一神のように信仰している。マリアの魂の源流は地母神であるため、彼女に信仰心を抱くのは人間の本能として別におかしなことではないが、この女はそれと同時に人間としてマリアに性的欲求を抱き今も興奮しているのだ。早速着替えたいと申し出るマリアに、当然のように手伝うメリンダ。マリアは一人でも着替えられるが、メリンダが喜ぶからすべて彼女にやらせてやっている。メリンダが脱がしやすいように自ら万歳をしてネグリジェを脱がせられ、代わりにワンピースを着せられる。そのボタンの一つ一つを丁寧に留めているメリンダの頭を特に何も考えずに撫でてやったりするからこの女は付け上がる。このワンピースだって、きっとマリアのためにわざわざ仕立てさせたのだろう。しかしマリアが高価なプレゼントを嫌がるから訊かれなかったことをいいことにそれを隠している。マリアの服を脱がせネグリジェの下に慎ましく隠されていた裸体を見るメリンダの目は女主人を見る目じゃない。なのにマリアは気付きもしない。  全ての母として生み出された彼女は当然多くから愛されていた。そのせいなのか、悪意には敏感なのに好意には鈍感だ。そう創られた(・・・・・)から仕方がないとはいえ、傲慢な感性な上に危険である。腹を空かせた肉食獣に狙われているのに全くの無防備で、むしろその肉食獣に善意で餌を与えているのだから。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加