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リーロンの予想より、マリアが部屋に来るのが早かったらしい。彼は書類を置くと「随分早いな」とマリアを座ったまま見上げた。その隣には支度を終え鞄を傍らに置いたラウドが緊張した面持ちで立っている。
「何か御用ですか? 身支度も終わったので、そろそろご挨拶をしてから試験会場に向かおうかと思っていたのですが……」
「下に馬車を用意してある、それに乗っていけ。試験会場まではこいつも一緒だ。問題は無ぇよな?」
「ラウドくんもですか? アタシは構いませんが……試験前の緊張で精神的にナイーブになっている時に、特に親しくもない他人と長時間密室にいるのはラウドくんには酷なのでは? 一応本日のために個人的に馬車を手配してありますし、アタシはその馬車で構いませんよ?」
「同じ馬車で行け。お前の言うその馬車はジェンに命じて本来の料金の倍を支払って追い返す。不満か?」
「……彼が嫌でないなら、アタシは構いません」
話はそれだけだった。挨拶もそこそこにラウドと共に部屋を出たマリアは、そのまま階段を下りて馬車の待つロータリーに向かう。
「……ラウドくんは、本当に大丈夫なの?」
「そんなに心配されるほど、オレは弱くない」
「あら、昨日まで筆記試験をあれだけ不安がってたのに」
「それは……」
「冗談よ。リーロンに言われたんでしょ? 『そのぐらいのプレッシャー跳ね返せないわけないよな』的なことを」
「どうしてそれを!?」
「あの人なら言いそうだから。だって彼、アナタのことを深く信頼しているもの。余計な口を挟んでごめんなさいね。煩わしいかもしれないけれど、暫く同乗させて頂戴ね」
マリアは鞄を持ってホールで待っていたメリンダに「行ってきます」と微笑むと、そのまま鞄を受け取って屋敷の玄関を出た。少し先に歩いていたラウドが場所の扉を開け、マリアが乗りやすいようにエスコートの手を伸ばして待っていたから、マリアは少し驚いている。
「真面目ねぇ……」
マリアが思わ思わず呟く。彼女は有難くラウドの手を借り、馬車に乗り込んだ。
出発した馬車はガタガタと揺れる。そこに沈黙のままの二人の子供。
マリアは俺の正体を知らない。知ったところでこの人は俺を拒むことなんてしない。だからわざわざ知らせる必要も無い。
俺は彼女の肌を伝い服の下に潜り込んだ。陽光はどうにも苦手なのは、昔からどうしても変えられないのであった。
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