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19話:楽しくやろうぜ筆記試験
🐰
ゴトゴト揺られながら、マリアはリーロンが用意してくれた馬車でリーロンの側仕えとして屋敷に滞在していたラウドと共に試験会場となる場所に向かっていた。ラウドは馬車の中でも必死に筆記試験の内容を反芻して勉強していて、それはマリアも同じだった。
試験会場は首都・ペンドラゴンの郊外にある森の中の施設で行われるらしい。今日はそこに向けて馬車が多く行き交っており、忙しない。
やがて馬車が到着すると、二人は馬車を降りる。集まっている生徒達は看板の誘導でそれぞれの部屋に集められて、まずは筆記試験を行うことになっている。
「それじゃ、また後で。お互い頑張ろうね」
マリアは躊躇っているラウドの肩を叩きとっとと試験会場に歩き出す。ラウドも慌ててその後を追い、二人は試験会場に入った。
「マリアは緊張しないのか……?」
「してるよ、心臓バクバク」
「にしてはそんなふうにとても見えないが……」
「怯えてたって舐められるだけよ。それにこの態度も試験の対象かもしれないんだからビクビクなんてしてられないわ。なによりアタシは今リーロンの婚約者なのよ? 『リーロンの婚約者は入試試験に臆する弱い女』なんて不名誉な噂、リーロンに与えるわけにはいかないでしょ?」
マリアは強く言い放つと、ラウドは感心したように呻いて、自身の気を引き締めるように「よし」と頬を叩いていた。キリッと眉を上げ試験会場を睨む彼は、先程までの弱気は引っ込んで立派な騎士の姿をしている。“自分の評価がリーロンの評価になる”という事実は、この少年を奮い立たせるのには充分すぎる程の情報だったらしい。
会場に入り、事前の受付番号ごとに部屋に集められ、キビキビとした動きの試験官の配る答案用紙と問題用紙に全員が名前を記入したところで、筆記試験が始まった。
カリカリとペン先が回答用紙を滑る音が響く部屋の中で、マリアも答案用紙に向き合う。問題を解きながら、マリアは深く幼馴染のモンタに感謝していた。
答案用紙を見て、彼の対策ノートは最高の出来だったと確信する。 マリアは迷うことなく、解答用紙を全て埋めることが出来たのである。どれもこれも全て対策ノートで重点的に勉強するよう念押されていたところのヤマが当たったからだ。長文問題は少してこずって、正答かは分からないが埋められたことは埋められた。白紙で出すより幾分も印象が良いだろう。
ありがとうモンタ、本当にありがとう。マリアは本日の試験終了後に会う約束をしている幼馴染に早くこの感動と感謝を伝えたくて堪らなかった。
半分ほどの時間で全ての解答を終えたマリアは、問題にスペルミスなどが無いことを確認してから解答用紙を伏せて置いた。それからはただ前を向き、背筋を伸ばして座っていた。
ラウドは今頃どうしているだろうか。試験への申込期間に間があったのでマリアとラウドは別室にての筆記試験となっているから、彼がどのように問題を解いているかの様子はマリアには分からない。出来ることは信じることだけだった。
やがて筆記試験の時間が終わり、チャイムが部屋の中に鳴り響く。試験官は始まりと同じようにキビキビとした動きで解答用紙を回収すると、パチンと指を鳴らした。解答用紙が一瞬で消え、代わりに白い立方体の箱が現れる。彼女はそれを両手で持って、よく通る声で告げた。
「筆記試験お疲れ様でした。次は実技試験に参ります。右端最前の席から順に、このボックスの中から一枚ずつ紙を取り、実技試験が行われる会場に向かってください」
受験生達は首を傾げたが、彼女の言葉に従い箱の中から紙を引いていく。四つ折りにされた紙がボックスを埋めているその箱を持った試験官がマリアの前に来た時、マリアは他の子供と同じように紙を一枚掴み上げ、畳まれていたのを開いた。そして、中身を見る。
「F-3……?」
そこには意味不明な英数字だけが書かれていた。
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