19話:楽しくやろうぜ筆記試験

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 オーク。それは人喰いをするとされているモンスターの一種。人間より遥かに高い背丈と体格を持ち、豚に似た頭部をして、棍棒などの武器を扱う魔物。夜に眠らない子供を眠らせる時に、『早く寝ないとオークが棍棒で叩きに来るよ』と謳い文句にされるぐらいには凶悪で凶暴とされている種族。そのオークが6体、檻の中に居た。  先程までの布に防音機能があったのだろう、しかしそれがめくられた今はオークは檻に閉じ込められたことに憤慨し叫び声を上げ檻を壊そうと体当たりをしている。その光景は幼い少年少女をパニックに陥れるには充分だった。 「冗談じゃない!」  マリアの後ろでタイッシュが叫ぶ。彼は青ざめ、みっともない程に震えていた。 「こんな試験聴いてない!? 正気か!? あんなのと戦ったら死んじゃうじゃないか!? 僕は帰る!!」 「はっ!? 待てよ! オマエが帰ったらオレ達は6人じゃなくなって試検を受けられなくなるだろうが!」  列の先頭に居た少年が憤って叫ぶが、タイッシュはすっかり戦意を喪失してもう試験どころじゃない。そんな子供が、会場には溢れかえった。  オークの咆哮、それに怯え泣き出し逃げようとする子供。マリアはため息をつき、カードを一枚、オークのいる檻に向けて投げた。{静寂(サイレント)}、静寂を司るそのカードによって、オークの声は雄叫びは聞こえなくなる。  皆の視線が一斉にマリアに集まった。試験官の女性もマリアを見ていた。マリアはそんな女性を見つめ返し、ため息混じりに問う。 「まだ、説明の途中ですよね?」  マリアは上の女性にそう促す。 「受験生達がパニックになることぐらい、分かってましたよね? 当然棄権を申し出る子供も出てくるの分かってましたよね? その際どのような対応を取られるか、教えていただけますか? 少なくとも早く帰りたがっている子供もいるのですから、説明するのが試験官(アナタ)の義務でしょう?」  一気に煩くなって鼓膜が痛み頭がグワングワンと揺れ、不快だった。そのせいで苛立って語気を強めるマリアに、試験官の女性はニコリと笑う。ここまで想定内とでも言いたいのだろうか。  以下、彼女の話したこの実技試検の説明は以下の通りである。  ◇その1、試験が始まってからの棄権は認められない。   ◇その2、オークの数は試検を受ける者の数で変わる。 つまり二人棄権して三人で挑む場合オークの数も三体になる。途中棄権が認められないのはそれが理由。  ◇その3、オークは殺しても構わないし、学園が用意した鎖を嵌めるのでも構わない。兎に角無力化することが勝利条件。  ◇その4、実技試検のクリアがイコール試検の合否を決めるわけではない。  上記四点の説明を受け、子供達は5分の時間を与えられた。その5分で、試検を受けるか帰るかを決めるということらしい。
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