14話:神であった少女に蛇は牙を剥いた

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「今日は、ごめんね。アタシの父親があんな感じで……見ていて不愉快だったでしょう」 「まぁ、想像以上に酷かったな。肉体も精神もぶよぶよした、豚みたいな奴で寒気すら覚えた」 「あらやだ、そんなこと言ったら豚に失礼ですよ。豚は殆どが肉で脂肪なんて少ないんだから」  正直なリーロンの感想に、マリアは苦笑する。だがリーロンの言う通り、今日の父の態度は酷いものだった。 「あの男、本気で馬三頭を持参金にしてお前を嫁がせようとしてたのか?」 「えぇ。信じられる? アタシの価値は馬三頭なんですって。【人魚の涙】を用意して置いて本当に良かった。持参金の内容を聞いたのが前日の夜だったから、用意が大変だったのよ?」 「あれはどうやって用意したんだ?」 「友達に居るのよ、涙が宝石になる人魚が。昔奴隷オークションで売られていたところを助けてあげて、以降安全な海で暮らしてる女の子。喜んで宝石を提供してくれたわ。一生掛けて恩を返してもらう予定だから」 「その話は後で詳しく聴かせてもらうことにするか。  今日はお前の姉は発狂しなかったのか?」 「……リーロン、アタシのお姉様に何か恨みでもあるの? 顔合わせの日の晩も、今日も、お姉様が不幸だと嘆くのを喜んでいるように見えるわ」  マリアは言ってから、直ぐに「……理由は明白よね」と答えた。どう考えても、顔合わせの晩にラウドに対して放った姉の言葉がリーロンに嫌悪を抱かさせた。 「あの日は、ごめんなさい。ラウドくんに厭な思いをさせたわ。アタシが謝って済む問題じゃないけれど、本当に馬鹿な姉でごめんなさい」 「気にすんな。ラウドも一々そんなことを気にするような女々しい奴じゃ無ぇ」 「……じゃあ、どうして?」  マリアは首を傾げ、リーロンはふいに黙った。沈黙が二人の間に流れて、マリアは何かまずいことを訊いただろうかと己の問いを反芻する。 「——……お前、自分に与えられたプレゼントを、姉に奪われたことはないか?」 「えっ? そりゃあ、沢山あったけど……あの家では全てが姉が優先されていたから、例えばアタシ宛てのドレスでも姉が着れるなら姉のものになったわ。アクセサリーなんかは全部姉に取られた。アタシの物はお姉様のものなの。アタシの社交界入り(デビュタント)がまだなのも、お姉様がお金を沢山使ってしまってアタシのドレスに割くお金が無いからなのよね」  マリアは言いながら、肩を竦める。そして己の右耳のタッセルピアスに触れ、リーロンに見えるように押した。
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