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「モンタは……勤勉の寮だろうなぁ……」
「まぁなんとなくそう割り振られる気はしているな」
「アタシどこだろう……自由の寮かな」
「自由、確かにお前に似合う言葉だが、自由を謳ったナイトメアジャッジ寮にはあまり良い噂を聞かない。実際、退学者が一番多い寮もこの寮だ」
「あらまぁ」
“退学者”の三文字に、そうかそういう心配があるのかとマリアは考える。入学しても、退学の心配がある。入学したからといって安心せず、落第の可能性や退学の可能性に怯えなくてはならない。
「お前には、“親愛”を謳ったベアアプフェル寮が無難だろうな。これも噂だがベアアプフェル寮のある土地の裏手の森で採れる蜂蜜の詰まった特殊な林檎があるらしい。そういうの好きだろう?」
「さすがモンタ分かってる、アタシそういうの好き。もしその寮になったら、その林檎でアップルパイを作ってモンタのおやつにしてあげるね」
それからも会話を続けていれば、あっという間に夕暮れ時となった。話すことは沢山あった。リーロンに住まわせてもらっている屋敷のウォークインクローゼットの中のドレスの話。ドレッサーに用意されていたアクセサリーの話。それらを用意したリーロンは全てマリアに与えたつもりらしく金持ちは太っ腹だなぁという話。対して父親は最後までみみっちかった話。持参金が馬三頭だったために急いで自力で用意した話。教会で天啓を受けた話。
水晶玉が割れたのは話さなかった。話すべきではないと思ったからだ。
そんな話をしていれば、午後四時を伝える鐘の音が鳴った。
「いけない、帰らなきゃ」
マリアはそれにパッと立ち上がって、帰り支度のために財布を取り出す。モンタがやんわりとそれを手で制しながら、「門限が設けられているのか?」と尋ねた。
「違う違う、リーロンはアタシに無関心だよ。門限も無い、自由にやれって感じ。そうじゃなくてメリーが心配するのよ」
「あぁ、お前の侍女か」
「そー。新しい街に越してきたばっかりでまだ気が立ってるからさ、あんまり心配掛けたくないんだよね。多分今もアタシが帰ってこないことに気を揉んでるだろうし、ここら辺が限界。もう少しすると心配で探しに来ちゃうだろうから、帰らなきゃ」
「なるほどな」
そう話している間に、モンタはマリアの分も含めて会計を済ませていた。テイクアウトのケーキを二箱受け取ったマリアは支払いを押し付けてしまったことに首をすぼめる。
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