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「お金、ちゃんと払うのに」
「ならその金で侍女にアクセサリーでも買ってやれ。お前から物を与えられれば、慣れない土地で生きる御守りになるだろうさ」
「それもそうかも……? うーん、でもアクセサリーを親しい人に贈る時は基本{創造}で創ってるからなぁ……」
マリアはモンタの提案に悩み唇に人差し指を押し当てる。実際今日も身につけているモンタのモチーフがスッキリしたシルバーネックレスはマリアが彼の10歳の誕生日プレゼントとして創り贈った物だ。{盾}と{跳躍}、{瞬足}の加護を受けているためにモンタにとって有益なアイテムとなっているはずである。
「その為に多くの“時間”を消費するだろう? なら買った方がコスパが良い。
既製品をただプレゼントするのが気が引けるなら、買ったものにお前の魔力を少し込めてやればいい。お前なら出来るだろ?」
「うーん、そうかも……? ちょっと考えてみるね」
ヘラリとマリアは笑って、それ以上は何も言わなかった。モンタも、何も言わなかった。
カフェから出たマリアは、帰宅のために{翼}によって背中に虹色の両翼を生やす。ケーキの箱を落とさないように抱え直すマリアに、モンタが呟く。
「あまり、リーロンに心を許すな」
「ぇ……? 急にどうしたの?」
「お前を不安にさせるようなことは言いたくは無いが……あの男に慈悲を求めてはいけない。お前はあの男とも仲を深められると思っているだろう、だが人間の中には人の心を持たない奴も居るんだ」
「……心配しないで。アタシ、負けたりしないから」
マリアは務めて明るく言って、「じゃあね」の言葉で飛び立った。
飛び去る自分を見送るモンタの瞳があまりにも心配そうだったから、マリアは一人胸中で彼の言葉を反芻する。
『あまり、リーロンに心を許すな』
確証の無いことを、モンタは言わない。くだらない噂に左右されて他人を差別することもしない。そんな彼が“気を付けろ”と忠告するのだから、本当に気を付けねばならない何かがリーロンにあるのだろう。それはリーロン自身か、サティサンガ家か、あるいは両方か。
マリアは悶々とした気持ちを抱え、カントリー・ハウスへの帰路に着いた。心がザワザワと、嵐の前の逆立った森の木々のようにやかましかった。
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