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「それを知ってたから、このピアスにだけは刻印を入れてくれたんでしょ? 『M From R』って。おかげでこのピアスだけは死守することが出来たわ。ありがとう、とっても嬉しい」
「これからは、お前に贈られたプレゼントは全てお前のものだ。誰にも奪われることは無ぇ。実の姉にも、だ」
「えぇ、そうね。ありがとう」
マリアはニコリと笑い、楽しそうに足をプラプラと揺らした。
大聖堂から離れたことで、気分が随分楽になってきた。息がしやすくなった、といえば分かりやすいだろう。マリアの顔色が良くなったと分かったらしい、リーロンもどこか機嫌が良さそうだった。
「あの男、資金援助を求めてきていたが、どうする?」
「資金援助?」
「お前が大司教に連れて行かれた後、俺の元に来てビジネスを手伝えと。手始めに資金援助をしろとさ」
「無視してくださいそんなもの。ドブに金を捨てるようなものよ」
マリアは思わず顔を顰めた。リーロンは肩を揺らして笑ったが、「金と一緒にドブに沈めてやるには良い機会だろ?」と悪戯っぽく笑う。
「支援はしてやる。ただし、“借金”として、だ」
「というと?」
「あの男には、援助金を“借金”として借用書を書かせる。金を貸し付けてやるんだよ」
「……どういうこと?」
リーロンの話す意味がわからなくて、マリアは首を傾げた。リーロンはニヤケ笑いのまま、説明してくれる。要するに投資ではなく融資をするということらしい。その融資に、“借金”として借用書を書かせるという。
「そうするとあの手の奴等は、借りられる限度額一杯が自分の資産の残高だと思いこむ。俺達もニコニコ黙ってそれを見てあいつ等が金を使うのを見ている。それで、あいつ等の借金が返せなくなったところで、一気に追い込みをかける。爵位は案外高く売れる。田舎貴族とはいえ“ダントルトン家”は長く続く家だ、その身分を欲しがる奴は沢山いるだろうな。その中で一番金を出せた奴に売り付けてやる。お前はあの父親が野垂れ死ぬのを俺の隣で笑いながら、優雅に暮らしてりゃいい」
なるほど、リーロンは賢い男であった。マリアは彼のプレゼンに感心して「すごい」と声を零す。しかし、それだけだった。マリアが父親を憎んで憎んで仕方無い、憎悪に溢れた人間だったなら、一も二もなく頷いてその提案を受け入れていただろう。だがマリアは、リーロンの言葉に曖昧に笑うしか出来ない。
「でもいいよリーロン。そんなことしなくても。手間でしょうし、何よりアタシも特にそこまで望んでないし」
マリアの返答に、リーロンは眉を顰めた。マリアは苦笑して、手を伸ばしリーロンの手を握る。
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