22話:ツリーハウスから庭へと帰り、少女達は囁き合う

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22話:ツリーハウスから庭へと帰り、少女達は囁き合う

🐰    カントリー・ハウスに到着した時、時刻はギリギリ午後五時前だった。セーフと思いながら屋敷の手前の森に降り立って、スカートの裾を軽く直し髪も手櫛で直してから何気無い顔で屋敷の門番に帰宅を報せる。マリアの特徴的な7色に変わる瞳は一度見たら忘れない強烈さがあるらしく、門番は一瞬でマリアを新しい女主人本人だと認め「お帰りなさいませお嬢様!」と腰を折った。そのまま開けてもらった門から敷地内に入り、屋敷の玄関を開けばいつの間にかジェンが既に玄関でマリアを待っていた。 「おかえりなさいませマリア様」 「ただいま爺や。帰ってきてすぐに出迎えてくれるなんて優しい人ねアナタ。そんなアナタにお土産があるの、甘いものが嫌いじゃなければ嬉しいんだけれど」  マリアは早速ジェンにケーキの箱を渡した。彼はそれを受け取り「有難く頂戴します」と腰を深く折る。ジェンに箱を渡し終えてから、マリアはキョロキョロと視線だけで辺りを見回した。てっきり玄関まで迎えに来ていると思ったのに、メリンダの姿が見当たらない。 「メリンダをお捜しですか?」 「えっ、あ……爺やには隠し事出来ないなぁ……うん、メリーなら玄関で待ってるかと思ってたんだけれど……アタシの驕りだったかしらって、恥ずかしくなっていたところよ」 「彼女でしたらあまりにも落ち着かない様子でしたので、森で散歩でもするように言い付けましたよ。マリア様もそちらの方が都合が良いでしょう?」 「本当に爺やには隠し事出来ないなぁ」  マリアは思わず苦笑してしまった。ジェンはいつの間にかマリアが屋敷の周囲の森を自分の領域としていて、それの中心となる木にツリーハウスを作っていることを知っていた。『ツリーハウスの為の工具や家具を揃えましょうか?』と言われた時はビックリして飲んでいたティーカップを落とすかと思った。しかも怒られるかと身構えていれば『ツリーハウスとは粋ですよねぇ。爺やも昔派手に作って最終的に爆発四散させましたよ』と楽しげに言われたからジェンに対する好感度がぐんっと上がったのは内緒だ。ツリーハウスはロマン、はっきりわかんだね。  ジェンの言葉を翻訳するなら、『メリンダは落ち着きがないのでツリーハウス作成の仕事を割り当てて落ち着くようにさせました』ということらしい。マリアは仕事の出来るこの執事長に感謝して、ついでに今のうちだと彼に向き直る。 「実は今日の試験が終わったら、メリーと二人でこっそり街に遊びに出る予定なんです。リーロンにも爺や(・・)にも内緒(・・)で」 「おやおや、それはまぁ……若い美空を楽しく過ごしたい、良い事ですね」 「ありがとう。ちなみに爺や、今アタシが話していたこと何か聞こえた?」 「いいえ? 爺やの耳には何も。老いとは厄介ですなぁ」 「そう、なら良かった。  少し裏手の森に行ってきます。メリーを迎えに行かないとだから」 「いってらっしゃいませ。旦那様へのご帰宅の報告は爺やの方で済ませても?」 「そうしてもらえると、とっても助かります」  マリアは仕事の出来る執事長に軽く手を振って、森の方へと歩き出した。裏庭に回ってから、花々の咲き乱れるその庭の外周をぐるりと回るようにこっそり移動して、「{透過(スルー)}」と呟き屋敷を取り囲む壁を通り抜ける。 
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