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「あーん」
「ん〜!」
嬉しそうにそれを頬張るメリンダの姿にホッコリしつつ、マリアは今日一日を回想する。
「マリア様、お疲れの顔してますね。試験大変でした?」
「あれ、そんなに顔に出てた?」
「メリンダには分かります」
「そっかぁ、メリーにはわかっちゃうよねぇ……」
しみじみと呟いたマリアは、今日の試験を掻い摘んで話し始めた。
「実技試験が、色々と反省の多い結果だったのよ。最初の話し合いの時点でバチったのを上手く宥められなかったり、戦闘中に咄嗟に庇って実質共倒れになったり……運良く回復役と盾役が居たから起死回生出来たけど、居なかったらオークにペシャンコにされてたわ。反省ね」
「そもそも子供を寄り集めただけの場所にいきなり魔物を投入する試験官って普通に頭おかしくないですか?」
「あ、メリーそこ突っ込んじゃう?」
素直な侍女の感想にマリアは笑って、「でも五体満足生きてるわ」と自分の身体が健康であることを彼女に見せつけた。
「それでぇ……えっとぉ……」
「……?」
「あーもうなんかいいやぁ! 無事帰ってこれたし試験でもやれることはやったしモンタにも会えたしメリーはアタシの帰りをちゃんと待っててくれたし、もうどーでもいいや〜!
メリー!」
「はい!」
「マリアのこと好き〜?」
「愛してます〜!!」
「アタシもメリーのこと好き〜!!」
マリアはメリンダを抱きしめ、メリンダは抱き締め返した。もう暫くはこうして居たかったし、メリンダはマリアを拒まなかった。
どのぐらいそうしていただろうか、辺りがすっかり暗くなった時に「そろそろ帰ろっか」とマリアが抱擁を解き、二人は暗くなった森を帰り壁を通り抜けて裏庭から石畳の道をさも庭を散歩していましたといった顔で移動する。途中で庭師の男とすれ違ったが、あちらはマリア達に気付くと被っていたキャスケット帽を外し深く腰を折って頭を下げるので、マリアは「お疲れ様です」の言葉と共に彼の前を通り過ぎた。
使用人に挨拶をするのは殆ど癖だった。その点を、マリアは大いに驚かれる。爵位を持った家の人間は使用人に一々挨拶などしないのが一般的なのだ。しかし前世で小学生の頃に礼儀礼節を叩き込まれたマリアは他者への敬意を忘れないように心掛けているから挨拶をしないとこちらが悪いことをしている気がしてならない。きっと日本人の性だ。
メリンダはマリア達が通り過ぎると頭を上げ帽子を深く被り直す庭師をジッと見ていた。そんなメリンダに気付かずに、「そうだ、」とマリアは話題を切り出す。
「明日の天気はなんじゃらほいメリー」
「明日は太陽こそ見えませんが晴れで過ごしやすい気候になる予定ですよ。ただ午後からは雲がいっそう増えそうですね。雨になる可能性も否めません」
「あら……じゃあ明日はダメそうかな?」
マリアの言葉に、メリンダは前を向いた。そして自分の三歩前を歩く主を見る。話の主語が読めず困惑するメリンダにマリアは振り返りながら「約束」と小指を立てた。メリンダはパァっと顔を輝かし、「大丈夫です!」と強く拳を握る。
「午前中は確実に晴れますし、そうだ雨傘! 雨傘を持っていきます! それなら濡れないでしょう? それに万が一雨が降ったとしても、雨の中のお出掛けも乙なものだとメリンダは思います!」
「そう? メリーがそう言ってくれるなら明日にしよっか。街の西の方に行こうよ。どう?」
「はい! 是非行きたいです!!」
メリンダはもう庭師のことなど気にならなかった。この男のことよりも目の前にいるマリアの方が大切だったからである。庭師は深く被ったキャスケット帽の下から、去り行くマリア達をジッと見つめていた。その目の下のくまが、彼の陰気さを示しているようだった。
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