23話:愛しい人、これは“デート”と呼んでいいですか?

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23話:愛しい人、これは“デート”と呼んでいいですか?

🐰  ——レヴァンタールの子供は暗殺者。皆血塗れ泥まみれ。  ——生まれた時から殺しを学び、貴族社会で暗躍を続けた。  ——東の国の独裁者も、南の国の大統領も、北の国の帝王様も、(みぃんな)(みんな)、殺された。  ——さぁさ良い子はおやすみなさい、早くベッドに入らないと。  ——レヴァンタールの子供は暗殺者。君のことも殺しに来ちゃうから。  メリンダは瞼を開いた。メリンダが居るのは屋敷の地下、下女達が四人で使っている寝室の一角。その一角が、メリンダがこの屋敷で唯一好きに使えるスペース。  固いベッドから降りたメリンダは、まだ眠る他の下女を一瞥してからクローゼットの中のメイド服に着替える。物音を立てないようになんて意識する必要も無い。だから他の下女を起こさないようになんて配慮をする必要は無い。歩く時も、着替える時も、足音も衣擦れの音も立てないようにと躾られ育てられたから、こんなところでボロなんて出さない。  メイド服に着替えたメリンダはそのまま真っ直ぐ部屋を出た。音も立てずに扉を開閉して、使用人用の階段を上がり屋敷に戻る。  嫌な夢を見た。過去の夢だ。家族(・・)の夢だ。クソみたいな悪夢だ。  夢を見る脳みそなんてないのに、代わりに入れられた魔水晶がまるで呪いのように映像をメリンダに見せる。それをメリンダは“夢”と呼ぶ。実際は眠っていないから、夢と呼んでいいのかはわからないが。  兎角こんな時、メリンダは非常に殺気立ってどうしようも無い。だがその殺気すらも隠すように徹底しているメリンダの異変に気付く人間はいない。メリンダとすれ違った、屋敷の夜の仕事をしていた下女達はメリンダとすれ違ったことにすら気付かずに通り過ぎて行った。  メリンダは足早に二階に上がる。目指すのはマリアの部屋だ。こんな荒れたメリンダの心を慰めてくれるのは、この世界で彼女しかいない。  ノックも無しに主の部屋に入るなんて、侍女としてありえないことだ。しかし今のメリンダにはそんなことを気にしている余裕は無かった。彼女は音も無く女主人の部屋に侵入し、天蓋カーテンのキャノピーをそっと捲る。  ベッドにはマリアが眠っていた。白金(プラチナ)色の髪をベッドに散らして、長い睫毛の生え揃った瞼を閉じて、死んだように眠っている。  メリンダはベッドに登ると、彼女の胸に耳を押し当てた。うるさいほどに聞こえてくる、彼女の鼓動。嗚呼、この少女は生きている。ちゃんと生きているのだ。それに、メリンダは嬉しくなる。彼女の鼓動音を聞くだけで、頭に昇っていた血がすぅっと下がっていくような感覚すら覚える。実際には血なんて流れていないが。
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