23話:愛しい人、これは“デート”と呼んでいいですか?

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 出掛ける準備をし終えればいよいよ出発だ。部屋を出て玄関ホールに向かって歩き出すマリアを追い掛ける形でメリンダは歩く。そうしていると、ふと前方からメイド長が歩いてきてバッチリメリンダと目が合った。メリンダはげぇっと言いそうになる。 「お嬢様、どちらに行かれるのですか? それにその格好……まるで街に住む下賎な娘達のような服を着て、どういったつもりで?」  高圧的な態度で、メイド長はマリアに尋ねる。このメイド長は初日からマリアのことが気に食わないらしい。彼女が懇意にしているジュレタム家の侯爵婦人から『我が娘ロベリアをリーロン様の妻に推薦するように』としてサティサンガ家に送り込まれリーロンに仕え始めたこの女は、リーロンが全く別の、しかも男爵家の女を妻に迎えたことが気に入らない。どうやらジュレタム婦人から相当キツく絞られたようだ。なんとしてでもマリアを追い出そうとしているのが態度に現れているし、マリアの侍女であるメリンダへのあたりもキツい。自分に対する態度は特に気にならないが、マリアへの敬意が無いことは誠に遺憾である。 「貴女には公爵家の妻として相応しい教育を受ける義務があります。部屋に戻りなさい」 「あら、もう家庭教師を雇ってもらえたのですか?」 「家庭教師など必要ありません! 貴女に教育を受けさせるのは(わたくし)の役目です!」 「あらあら。リーロンがアナタに、今日家庭教師としてアタシを教育するように言いつけたのですか? おかしいですね、アタシは今日、受験が終わったので羽休めをしていいとリーロンに言われました。なので羽休めをしてこようと思って出掛けるところなのですが……食い違ってますね、アタシ達。つまり、どちらかが嘘をついてるってことですね」  マリアがニコリと笑い、目を細めた。緑から黄色に色を変えたその瞳は、『オマエは嘘つきだ』と雄弁に語り掛けている。実際は、マリアはリーロンから許可など貰っていないので嘘つきはマリアのほうなのだが、押し黙ったメイド長の反応を見るにメイド長もリーロンから言いつけなど受けていないのだろう。ただ嫌がらせで、マリアの行動を阻害したに他ならないようだ。嘘つき同士、あとはどちらが弁に優れているかである。 「リーロンに確認を取ってみましょうか。どちらが嘘つきか。アタシが嘘つきなら、リーロンはきっとアタシを罰するでしょうね。アナタが嘘つきなら……さぁ、リーロンはどうするかしら」  びくりと、メイド長の身体が揺れた。このメイド長は強力な固有魔法を持ったリーロンを恐れている節がある。故にリーロンの名を使い嘘をついたと知られたらどんな仕置きを喰らうか、想像してゾッとしたのだろう。それを知っていて、マリアは笑顔で「誰か、爺やを呼んで! リーロンとの通信水晶を持ってきてもらいましょう」と更にメイド長を追い詰める。
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