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「望まない? てめぇをこれまで苦しめてきたのに?」
「うん。父親に対しても母親に対しても恨みとか憎しみとか、そこまでの執着無いっていうか……熱量が無い? って言えばいいのかな」
マリアはまた苦笑して、そしてリーロンの瞳をジッと見た。彼の菫青石の瞳にニコリと笑う。
「あの人達が死のうが生きようが、アタシはどっちでもいいよ。今後関わってこなければ、ね。あの人達はもうアタシにとって“過去”よ。アタシは“今”を大切にしたい。リーロンとの“今”をね。
折角新しい生活が初められるのに、昔の人間にいつまでも引き摺られるのは勿体無くて嫌なの。……リーロンは、それじゃ嫌?」
「……お前がそれでいいなら、いい」
「ありがとう……!」
マリアはリーロンの手を強く握り、ニコニコと笑う。そう、新生活が始まる。この馬車がマリアを新しい住処に運んでくれる。マリアはそれを理解し、心を踊らせた。
新しい住処には既にメリンダが待ってくれているはずだ。リーロンが用意してくれたという屋敷はどんなものだろう。雨風が凌げて暖炉が機能すれば、マリアとしてはどんな外装だろうと構わない。欲を言うなら昨日までいた地下牢のような場所ではなくしっかりとした“部屋”が欲しいが、あまり欲深いと損をするのはマリアなので、期待はしないでおく。
「お前今なにか失礼なこと考えてるだろ」
「……マリアワカンナイ」
「まぁいい。あと一時間すりゃ屋敷に着く。カントリー・ハウスだが、街に出るための道路は既に舗装されてるし不便は無ぇ」
「ありがとう、家まで用意してくれて。正直下宿先を探すのどうしようかと思ってたから、屋敷に住まわせてくれて嬉しいよ」
“下宿先”と聴き、リーロンは鼻で笑った。マリアは新生活に胸躍らせながら、これから辿り着く屋敷を楽しみにする。馬車はゴトゴト、まだ停りそうになかった。
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