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メリンダはアクセサリーボックスの中から大きなルビーがモチーフになっているネックレスを掴むと、それを強引に店主に押し付ける。
「お嬢様にはあまり時間がありません。本日の買い取りはそのネックレスのみでお願いします。早く買取金を持ってきてください」
店主は慌ててネックレスを受け取って、ルーペグラスでネックレスの確認を始める。そして急いで部屋を出ていくと、ネックレスに見合うだけの充分なラドル札の札束を持って戻ってきた。
「はい、こちらが私からした査定額となります。いかがでしょうか、お嬢様」
「それで大丈夫です。それからお嬢様はやめてください。長居しましたね、これで失礼します。メリー、行こ」
「はい、マリア様」
マリアはアクセサリーボックスの蓋を閉じ挨拶もそこそこに急ぎ足で店を出て行く。メリンダはきっちり札束が本物のラドル紙幣であることを目視確認してから、一礼してマリアの後を追った。
店を出たすぐの横路地で、マリアはこそこそとピアスを外していた。既にその手にアクセサリーボックスは無いので、きっともう{移動}の魔神に部屋に戻させたのだろう。
「あーもー! あの男やってくれたわね!!」
幸いなことにマリアは怒り心頭で、ダンダンと踵で強く地面を蹴っていた。苛々している時の彼女の癖だ。
「何も知らない無知なアタシを嗤ってたんだわ! 何も知らない、知ろうともしてない、そんなアタシを! お陰で大恥かいた上にお忍びが大失敗よ! どうしてくれるのよあの性悪男!!! しかもこれ落としたらどうすんのよ!? 絶対弁償できないやつじゃん!!」
「処します?」
「処さない! でも、一言文句言ってやらないと気が済まない! ……はぁ……ごめんなさい、苛々しちゃって。折角のメリーとのお出掛けなのに」
「いいんですよ、酷いのはあの男なんですから。マリア様は被害者じゃないですか」
「まぁ、調べなかったアタシにも非があるんだけどね……“M From R”の刻印を見つけて、それが全部だと思ってたわ……——あ〜も〜、考えるのやめやめ! これはポッケにナイナイ!
ねっ、お腹空いてない? なんか食べに行こうよ! お金も手に入ったし!」
「はい、締めて28万ラドルです」
「ただの石ころと落ちてたゴミが28万円の価値を持ったと考えると気分良いわね〜。
ぱぁっと美味しいものでも食べに行きましょ! ジャンキーなものがいいわ! 丁寧な料理はお屋敷で充分に食べさせてもらってるから」
ピアスをズボンのポケットにしまい「行こ」とメリンダの手を引くマリアに、メリンダも「はい!」と元気良く返事をする。
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