24話:結局三つ子の魂百までなのです

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「そうだ、最後にアイスクリームを食べようよ! アタシ買ってきてあげる、メリーはここで待ってて!」  デートの終わりを名残惜しく思っているメリンダに気付いたのだろう、マリアは遠くに見えるアイスクリームワゴンを指さすと、メリンダの手をギュッと握りタッタカとそちらへ駆けて行く。思い立ったらすぐ行動の権化のようなマリアに尊敬の念を抱きつつ、メリンダの為に走ってくれるのが嬉しくて頬が少し緩む。 「——そこなお嬢さん、ちょいとどうだい」  そんなメリンダに、声をかける者が居た。どうやら屋根付きの荷馬車による移動販売を行っている業者らしく、赤髪に雑に口髭を生やした男は「さっきの子はお友達かい?」と告げる。 「いいえ、想い人です」 「そうなのか! こりゃびっくりだ。そんなら愛しのハニーに何かプレゼントなんてどうだい? ほらこれ、あの子の白くキラキラした髪に似合うだろう?」  そう言って男が荷馬車から取り出し見せたのはガラスで造られた藤の花の飾りの簪だった。透明感のある紫の花弁は、たしかにマリアの白金(プラチナ)色の髪に良く似合うだろう。 「あのお嬢ちゃんも、お前さんから貰ったらきっと嬉しいだろうさ。マケてやるから買ってけよ」 「そうですね……お幾らですか?」 「600ラドルでいいぜ! これ、高そうに見えるけど実際は硝子の加工が得意な俺の故郷で作られたものだから、安く売れるんだよ。この国にはガラスをこんなに綺麗に加工する手段は無ぇからな。まっ、他の奴等には高値で売り付けて利益を得るんだけどよ。若い二人の恋路を応援ってことでこの価格にしてやるよ。どうだい?」 「頂戴します」  メリンダは迷わず自分の財布から1000ラドル紙幣を取り出すと、それを差し出す。男はパッとそれを受け取って簪をメリンダに渡した。 「ラッピングなんて気の利いた事は俺は出来ねぇから、お前さんの方でやってくれよな。丁度向かいの雑貨屋でそういうのを請け負ってたはずだぜ?」 「有益な情報をどうもありがとうございます」 「お易い御用だよ。それじゃあな」  男は商品の売買が済むとさっさとまた馬を歩かせてどこかへと行った。去り行く男がメリンダ以外の人間に品物を売るために声を掛けなかったことは後から考えれば不自然だったのだが、その時のメリンダはこのプレゼントをラッピングすることしか考えていなかった。  きっとマリアは喜ぶだろう。そしてメリンダに背を向け「メリーが付けて」とねだるはずだ。そうなったらもう堪らない。マリアがメリンダにプレゼントされたものをメリンダに付けてもらってマリアが喜ぶ、なんて素晴らしい休日だろう。メリンダはあの男に薦められた通り購入したプレゼントをラッピングしてもらおうと店に足を向ける。しかし自分がここを動いてしまったらマリアが不安になるかもしれないと足を止めた。今日初めて来た街で(はぐ)れるなんて、不安以外のなにものでもないだろう。雑貨屋には一緒に行って、マリアが雑貨に目を奪われている間にラッピングの注文をこっそり済ませよう。そう決めたメリンダはマリアが帰ってくるのを待った。  しかし、待てど暮らせどマリアは戻ってこない。おかしい、とメリンダが考えるのは早かった。アイスクリームのワゴンの方に歩いていけば、そこにはマリアの姿は無い。
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