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「すみません、ここに二人分のアイスを買いに白い髪の女の子が来ませんでしたか?」
「白い髪の子? あぁ来た来た。えらい可愛い子だったけど、それがどうしたの?」
「一緒に来た子なんです。なのに全然待ち合わせ場所に帰ってこなくて……」
「そうなのかい? あの子ならアイスを買って上機嫌であっちの方角に歩いて行ったけど」
売り子の女の言葉を信じるなら、マリアはアイスを購入後メリンダを待たせている場所へとむかったことになる。メリンダは礼も言わずそちらへと駆け出した。
おかしい、ここからアイスクリームワゴンまでは一本道、すれ違うほど道の幅も広くない。いくら賑わっていて人が乱雑に歩いているからと言ったって、迷子になるような所でもない。ならば。
メリンダは横路地を注意深く見た。その時キラリと、横路地で光る何かを見つける。
建物の関係で影っている、人一人が通れる程の幅しかない路地に歩み寄れば、そこには地面に転がり落ちた手付かずのアイスクリームが二つとタッセルピアスが落ちている。見慣れたピアスだ。リーロンが贈り今日までマリアが肌身離さず持ち歩いていた、アイオライトがモチーフとして着いている釣り鐘にサティサンガ家公爵家の家紋が彫られたタッセルピアス。
すぅーっと、脳みそ代わりの水晶が冷たく冷えていくのを感じた。マリアによって注がれていた“人間性”が、急激に失われていく感覚。これじゃいけないとメリンダは頭を振る。そして冷静になろうと自分に言い聴かせた。冷静に、しかし人間らしく。人間らしく、人間らしく……——
——レヴァンタールの子供は暗殺者。皆血塗れ泥まみれ。
——生まれた時から殺しを学び、貴族社会で暗躍を続けた。
——東の国の独裁者も、南の国の大統領も、北の国の帝王様も、皆々、殺された。
——さぁさ良い子はおやすみなさい、早くベッドに入らないと。
——レヴァンタールの子供は暗殺者。君のことも殺しに来ちゃうから。
「——殺そ」
メリンダは言うが早く、己の手にタッセルピアスと簪を突き刺した。暗く淀んだ瞳をしたメリンダが、路地からゆらりと姿を消したのを見たものは誰も居なかった。
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