25話:白亜の国で拾ったアタシの侍女

2/10

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
 マリアが今日の晩飯所を探して歩いている時に、バチンと頬を強く叩く音と少女の短い悲鳴がしたのである。慌てて路地を覗けば、髪の毛を捕まれ無理矢理連れて行かれそうになっている少女の姿が。気付けば駆け出して、男の後頭部を足の裏で蹴り飛ばしていた。少女はそれを、ぽかんとした顔で見ていた。  マリアより幾分か歳上とはいえ、まだ10代である。見るからに痩せていて、着ている服も夏とはいえ薄着過ぎる。勢いで助けた少女はマリアに「ありがとう」とお礼こそ言ったが、またすぐに別の男に声を掛けに行った。マリアはそれを止めて、非常にナイーブな話題だとは分かっていたが何故売春なんてしているのだと彼女を止めた。 「弟が熱で寝込んでる。薬を貰うためには稼がなきゃいけないの」  彼女が切迫した様子でそう言うから、マリアは自分の食事に付き合うことを条件に彼女の一晩の三倍の値段を彼女に支払った。そして彼女を温かい料理屋に連れて行って晩餐をご馳走した。少女は自分をアナスタシアと名乗り、マリアも自分の名前を教えた。 「マリアちゃんは、どうしてこんなに私に親切にしてくれるの……?」  不思議そうに尋ねる少女に、マリアは「なんとなく」と返す。 「アタシが女でアナタが女だったから。それじゃダメ?」 「不思議な子……でも、マリアちゃんには損しかないでしょ?」 「あらそんなことないわ。旅行先でこんな可愛い女の子と夕飯を共に出来たんだもの、悪いことばかりじゃないでしょ?」  マリアが冗談っぽく言えば、やっと彼女が本心から笑ってくれた。マリアは話しながら、彼女が早く帰りたがっているのをなんとなく感じとっていた。しかしマリアに恩を貰った手前今すぐ帰るのは失礼だと思っているらしい。 「弟くんが熱出してるんだっけ? パパッと食べて薬買って行きましょ」  マリアはそう提案し、運ばれてきた料理を綺麗にしかし手早く完食した。少女も頑張って大きな口を開けてはふはふと料理を食べていた。 「温かいご飯食べたの久しぶり。本当にありがとうマリアちゃん」 「気にしないでよアナスタシア。それよりその弟くんの所に早く行きましょ」 「うん、ありがとう。アンドレイ、きっと苦しんでるから早く帰らなきゃって思ってたの。ご飯ご馳走してもらったのにごめんなさい」 「気にしないで。アタシはアナタの時間を買ったんだから、その買った時間をアタシがどう使うかはアタシの勝手でしょ?」  マリアが言えば、アナスタシアはまた柔らかく笑う。きっと男に精一杯媚びるようなあの笑顔は偽物で、今のこの顔が本当のアナスタシアなのだろうなとマリアは感じた。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加