25話:白亜の国で拾ったアタシの侍女

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 薬を買って、アナスタシアが先導し向かったのはとある孤児院だった。教会と併設されたその孤児院に帰ったアナスタシアを出迎えたのはガタイの良く背の高い男で、お帰りも言わず「売り上げ」と手を差し出す。マリアが眉を顰めていれば、アナスタシアはマリアから貰ったお金を全てその男に渡した。マリアが更に眉を顰めていれば、男はアナスタシアに着いてきたマリアに気付いたらしく「何だこのガキは」と指をさす。 「アナスタシアの今晩の時間を買った人間よ、文句ある?」  その男の態度に腹が立って、マリアは言い返す。男は顔を顰め「ヤることヤったなら出てけ」とマリアを追い出そうと殴りかかって来たから、マリアはそれをひょいと避けた。同時にアナスタシアの売春にはこの男の存在が関わっていると理解し、白亜の国の金貨を男に10枚ほど投げつけてやった。白亜の国で流通しているこの通貨は、世界貨幣であるラドルに計算すると金貨一枚3万7千程の価値がある。そんな大金を投げつけられた男は慌ててそれを拾い集めるからその姿をマリアは思い切り鼻で笑ってやった。 「アタシはお客様(・・・)よ。それとも追い出す? 素直に入れてくれるなら追加支払いだって考えるわ」  マリアが金貨をチラつかせれば、男はそれ以上口を開くことは無かった。マリアは追加で三枚男に金貨を投げつけてやって、そのままアナスタシアと共に弟が寝ているという寝室の棟に歩き出す。 「あんなに沢山の金貨、良かったの……?」 「別に構わないわよ。あんなものよりアナタの弟の方が大切でしょう?」 「マリアちゃん……!」  アナスタシアはポロリと涙をこぼす。彼女は慌ててそれを収めようとしたが、マリアは無理に泣き止ませることはせずここで何が起きているのかの説明を彼女に求めた。  それからアナスタシアが説明したことを統括すれば、彼女の置かれている環境はマリアの予想していた以上に最悪だった。  この孤児院は併設されている教会の神父が頂点に立つ、孤児院の形態をした犯罪組織であり、子供達はその組織の一員というカウントらしい。孤児院の子供達は神父によって管理され、窃盗、児童密売、薬物密売運搬、児童売春までもが神父と職員達に命じられていた。  仕事の出来る有能な子供達は柔らかいベッドと暖かい食事が与えられ、仕事の出来ない無能な子供達は冷たい床とカビたパンが待っている。そんな中で子供達は二種類に別れる。なんとしてでも生きようと他人を蹴落とすか、生きることを諦めて底辺の生活を享受するか。アナスタシアの弟は前者で、他者を蹴落とすことも厭わず働き続け、故に風邪をひいてしまった。しかし後者であったアナスタシアには金の蓄えなど無く薬も無い。せめて風邪の間だけでも寝床と薬を懇願すれば、ならば自分で稼いでこいと夜の街に放り出されたというのがアナスタシアの説明だった。
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