15話:姉は荒れ、従僕は嗤う

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15話:姉は荒れ、従僕は嗤う

🐰 「お、お嬢様……ここはマリアお嬢様のお部屋で……」 「うるさい! 出てってよ!!」  エリカの言葉に、侍女は顔を青くしながらも深々と頭を下げて急いで部屋を出て行く。  マリアが寝室として使っている部屋の中はぐちゃぐちゃだった。テーブルランプはなぎ倒され、椅子も机も倒され、ソファーの上には踏み付けた靴の跡が幾つも残っている。ベッドの上には花瓶の水と花がぶち撒けられ、とても眠れる様子では無い。  この部屋の主であるマリアは、まだ帰らない。父親の話ではもう帰ってくることは無いらしい。帰ってきたとしても家に入れるつもりは無いと彼は言った。つまりここはもうただの空き部屋なのだ。  ハァーハァーと肩で息をしたエリカは、湧き上がる怒りのままクローゼットを蹴りつけた。扉が反動で開いて、その中には地味で質素なドレスばかりが並んでいる。エリカ以上に煌びやかなドレスは着てはならないと、暗黙のルールがあった。だからマリアのドレスはいつも質素で地味で、それでもエリカより可愛らしく仕上がるからより一層腹が立つ。 「むかつく……むかつくむかつくむかつく!!!」  エリカは気に入らなかった。婚約したと言ってこの家を出て行ったマリアも、そのマリアを連れ出して行ったリーロンの事も。 「公爵家が何よ!? そんなに偉いわけ!? 私を差し置いて婚約なんてどういうつもりなの!? 社交界入り(デビュタント)もまだなのに、いつの間に婚約者を見つけたのよ!!」  リーロンは美しい男だった。銀色の髪は艶やかで、青紫色の瞳は涼やかで、目鼻立ちは整っていて、佇まいは父親には無い威厳がある。公爵家次期当主で背も高く、魔法も強いらしい。学校でも人気者だとか。そんなリーロンに選ばれたのが、こともあろうにマリアなのだ。 「むかつく!! 地味な癖に!! 気味の悪い目をしてるくせに!! 忌み子のくせに!! お母様にもお父様にも愛されてないくせに!!」  髪を掻き毟りキーキーと喚くエリカの胸元には、マリアがリーロンから貰ったアイオライトのネックレスがあった。  マリアがリーロンから貰ったドレスもネックレスも、もう全部エリカのものだ。昔から、マリアのものはエリカのもの。マリア宛てのプレゼントはそのままエリカの部屋に運ばれて、エリカが要らないものだけマリアに与えていた。マリアもそれで文句を言わなかったのに。
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