25話:白亜の国で拾ったアタシの侍女

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「この国の侯爵家に、友人が居る。彼等はアタシが頼めばどんな願いも叶えてくれる。アナタ達を全員保護することだって可能なはずよ。アナタ達は心優しい侯爵様方に保護され、そして裁判所に行くの。“罪人”としてではないわ、“証人”としてよ。アナタ達は“被害者”で、この施設の職員と神父が“加害者”だという生き証人として証言台に立つの。それにはアナタ達の力が必要なの」  子供達は顔を見合わせ、またマリアを見る。 「このまま死んだまま(・・・・・)でいいの? 生きたい(・・・・)とは思わないの?」 「——生きたい」  やがてポツリと、子供達のうちの誰かが呟く。少女の声だった。 「そうよ、生きれるの。アナタ達は生きてこの施設を出て、新しい人生を始めることが出来るのよ!  アタシを信じて。アタシはマリア。アナタ達を絶対に助けてみせるから」  子供達の意思は、マリアのその演説で決まった。生きて、ここを出る。それが彼等の目標になった。  その夜からはとても忙しかった。マリアは{移動(ワープ)}にアッシャー邸までワープホールを繋げてもらうと、三兄弟の説得にかかった。彼等は人助けや慈善活動には興味が無さそうだったが、マリアが強く願えばすぐに頷いてマリアの為の計画に協力してくれることになった。  そして翌日、マリアは慈善活動と偽ってアッシャー三兄弟を教会に向かわせ、自分も教会にて悪の親玉である神父と相対した。  マリアは神父と“賭け”をすることにした。賭けの内容はポーカー、マリアが勝てば神父は出頭し犯罪組織は解体、マリアが負ければマリアの身体と命を神父の好きにできる。神父は一目でマリアが高く売れると感じたらしい、直ぐにこのギャンブルに乗ってきた。そしてマリアはこの賭けに勝った。あとは簡単だった。次男インフェルスの固有魔法は“ルールを設ける”ものであり、長男カエルムの固有魔法は“命を取り立てる”ものだった。ルールの中で惨敗し命を取り立てられることになった神父は、抜け殻のように呆然と椅子に座り込んでいた。カエルム達は「哀れですねぇ」と憐憫と嘲笑の言葉を掛けてから、「では私達は衛兵に命じて子供達の保護をして参ります」と部屋を出て行く。  それと交代するように、部屋の外で様子を伺っていた子供達がわっと部屋に雪崩込んできた。  諸悪の根源であり最大の悪であった神父をマリアが打ち破った。約束通り皆は貴族に保護される。その現実を知って、子供達はマリアを讃えずにはいられなかったらしい。マリアは疲れ切ってしまってあまり良いリアクションは返せなかったが、子供達との約束を守れたことが誇らしかった。  だが、それでは終わらなかった。放心していた神父は子供達の声に発狂し、なんと奥の棚にしまわれていた引火性の高い酒を取り出して辺りにぶちまけたのだ。そしてマッチを擦り、放り捨てる。(たちま)ち部屋の中は炎の海となり、その中で神父が高笑いを響かせる。 「——可哀想な人」  マリアは本気でそう思った。敗北者とはかくも虚しくみっとものないのかと同情すらした。だが火の手が子供達に迫っているから、もう神父のことなどどうでも良かった。  マリアは水の魔神{(ウォーティー)}を呼び出して真水を大砲の砲弾のようにすると、その水で教会の壁に無理矢理穴を開ける。そして雨の魔神{(レイン)}に道を作らせるとその雨が降りしきる中を道標として外へ走らせ避難させた。後には発狂した神父だけが残ったから、その神父を{(ウォーティー)}の水の玉に閉じ込めて連れ出す。多少火傷を負っていたし途中酸欠で気絶したようだがどうでも良かった。  ゾロゾロと兵隊の走ってくる音がする。そろそろ引き上げないとマズいとマリアが(きびす)を返した時、その時がメリンダとの出会いだった。
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