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急にぐいとワンピースのスカートを引っ張られたかと思ったら、右手を酷く火傷して肌を爛れさせたメリンダが居た。その腕は相当痛いだろうに、それを一切気にせずにマリアのスカートを逃がさないと言いたげに掴む。
「メリンダを連れて行ってください! なんでもします! ご飯も要りません! あなたのためにメリンダの命を使わせてください!」
「ちょっと待って、アナタは……?」
「メリンダです! あなたに救われました! あなたの為に生きたいです! 生きるのだと言ったのはあなたです! だからあなたの為に生きたいです! メリンダを連れて行ってください!! 絶対に、役に立ってみせます!!!」
必死になって叫ぶメリンダの手を、マリアは振り払えなかった。服装からして、マリアの演説したあの部屋に居た子供の誰かだろうということはわかったからだ。
「わかった、わかったわ……おいで、メリンダ。とりあえずその腕を治してあげる……の前に撤収ね、逃げるの。行くわよ、ほら立って、行くんでしょ?」
「っ、はい!!」
それからはアッシャー邸にメリンダ共々{移動}をして、マリアはメリンダの身体を治してやった。メリンダの怪我は{治癒}では治せず{修理}で直すことになったが、それで良かった。なおればなんでもよかった。その時点でメリンダの肉体が人体とは掛け離れた藁人形のようになっている事を知ったが、だからといって拒むことも驚くこともしなかった。それが、メリンダがマリアに陶酔するきっかけになったのかもしれない。
それからメリンダを侍女として雇えるようカエルム達に口添えしてもらい、見事侍女として傍に置いて、そして婚約先の屋敷にも連れ出した。
「——……のに、最悪。今日はデートだって言うのに、空気の読めない人達」
ポツリと呟いたマリアは、両手両足を縛られて地面に転がされていた。メリンダとの外出中、アイスクリームワゴンから二人分のアイスクリームを買ってメリンダの元に帰ろうとしたその時、突然暗い横路地から伸びてきた手に引っ張られマリアは昏睡系の魔法をかけられた。朦朧とする意識の中、ポケットの中のピアスを地面に放り捨てたのだけは確かに記憶にある。だがそれから、この何処とも知らない床で目覚めるまでの記憶がマリアには無い。
どうやら屋根付きの荷馬車のようだということは、マリアにもわかる。マリアはその一番奥の、木箱や樽などの荷物の奥に隠すように寝転がされていた。この荷馬車の中には四人の男達が居て、一人が馬車を運転してるらしいから敵は計五人。
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