15話:姉は荒れ、従僕は嗤う

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 三日前の夜、リーロンが連れて来た従者にエリカはマリアによって頭を下げさせられた。信じられなかった。あんな顔に醜い傷を持つ、しかも片目が汚く白濁した男に頭を下げなければならない理由が分からない。なのにマリアは何一つ間違ったことをしていないという顔でシラッとしていて、余計に腹が立った。だから牢屋に入れていたのに、お父様はマリアを牢屋から出して今日の婚約の席に連れて行ったという。  信じられない。最低だ。それで結婚の約束が上手くいったと。父親はほくほくした様子で上機嫌に帰ってきた。マリアが嫁いだら家業は安泰だなんて言って、エリカの気持ちなんてわかってくれやしない。マリアはいつでもエリカより劣ってないといけないのに。 「あぁ、もう!! 本っ当にむかつく!! あんな子、死んじゃえばいいのに!!」 「——殺しちゃえばいいのでは?」  エリカの言葉に、ふと答える声があった。振り返れば、部屋の入口に若草色の髪の青年がいる。下級使用人の制服を着たその青年、名前をカイニスと言いエリカが発狂した時に宥めに来る役目を担っている男だった。不器用に敬語を使う彼は、平然とそう言い放つ。 「エリカ様が『死んでしまえ』と願うなら、死んでもいい人間でしょ? 殺しちまえばいいじゃありませんか」 「っ、どうやってよ!?」 「この世には金さえ払えばどんな汚い仕事も請け負う輩がいらっしゃいますよ。幸いエリカお嬢様はアクセサリーなど換金出来るものを沢山お持ちですし、誰か適当な輩に金を支払って妹君(いもうとぎみ)を殺してしまえば良いのでは?」  カイニスの発言は魅力的だった。エリカは目からウロコが落ちた気持ちで、彼の言葉を聴く。 「でも……そんな人、どこで会うのよ……」 「オレが代理人として、お嬢様の代わりに宝石を換金しそれで殺し屋を雇いましょうか? サティサンガ家の次期当主の婚約者、殺したがる人間は大勢居ます。お嬢様がやったとバレることはありませんよ」  エリカは考える。カイニスの提案に頷けば、エリカは目障りなマリアを殺せる。そうしたらエリカの気持ちも少しは晴れるかもしれない。 「……じゃあ、あなたに任せるわよカイニス。あの子を殺して」 「かしこまりました。ではそうですね……手始めにそのネックレスにしましょう。とても上質なアイオライトが使われております故、賊を雇うには充分な金になります」  言われて、エリカは躊躇った。このネックレスは手に入れたばかりですぐに渡してしまうのはなんだか惜しい。しかしカイニスはモノクル越しの瞳を細め、「そのネックレス一つでエリカ様の憎い妹が死ぬなら上出来ではありませんか?」と畳み掛けてくる。
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