15話:姉は荒れ、従僕は嗤う

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「それに、そのネックレスはエリカ様には似合いませんよ。エリカ様にはもっと違ったデザインのものが似合います」  カイニスのその言葉が決定打となった。エリカはネックレスを外すと、カイニスに向かって投げ付ける。カイニスはそれを容易にキャッチすると「では、エリカ様の御心のままに」と恭しくお辞儀をし、彼女を自室に連れ戻して眠らせた。カイニスはエリカの扱いに大変慣れているので、眠らせるまでが素早かった。実の所眠る前の紅茶に睡眠薬を入れて眠らせているのだが、この屋敷に居る者は誰もその事を知らない。 「そう、これはアンタには似合いませんよ、オジョーサマ」  エリカが眠り屋敷の使用人達も次々と使用人用の寝室に消えていく中、カイニスはローブをすっぽりと被るととっととダントルトンの屋敷を出て行く。そして裏庭に立て掛けてある庭掃除用の箒を一つ拝借して、それに乗ると夜空に駆け出した。 「このネックレスはマリアに(・・・・)似合うんだから。アンタみたいな女に似合うわけ無ぇじゃん。それがわからないとか、ホント可哀想な子ですよね〜」  カイニスは嘲笑する。眠っているエリカは知らないだろう。カイニスがエリカのことをどう思っているかなんて。世界中の全てが己を愛していると信じて疑わないあの馬鹿な娘は、一番心を許している従僕にすら嗤われているなんて思いもしない。可哀想だとは思うがそれはそれ。全てはエリカが馬鹿なのがいけないのだ。 「にしても、マリアが嫁に出されたのは意外だったな〜」  カイニスは箒の上で独りごつる。しかし良いキッカケが出来た。これで、表向きには暗殺したとこにして裏ではマリアを拉致するのも簡単になった。ネックなのはサティサンガ家の護衛がマリアに付くことだが、主人とその婚約者、どちらが大事か彼等はすぐに判断をつけ二択を迫られればマリアは捨てられる。そこを掬い取るように拾えば問題は無い。 「“馬鹿と鋏は使いよう”ってこういうことっすよね〜」  カイニスは上機嫌で、くるりと箒で夜空を回った。早く計画を練りたくて、その心はウズウズとしていた。
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