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「最っっっ悪……」
二月十二日、午後八時。
珍しく午前中に目を覚ましたミス7が真っ先に感じたのは、今までに何度か経験のある倦怠感と頭痛と目眩。
(……毒キノコか……。)
ミス7は普通なら中学に通っているはずの年齢にして、すでにスパイ会社の超一流エージェントであり、同じくエージェントでコンビを組んでいるミス6とともに、裏社会に名を馳せる最強最悪の少女である。
もちろん毒を盛られることなど日常茶飯事だが、今回のこの毒はスパイの仕事中に盛られたとか、そんなかっこいいものではない。
昨日、ミス6から「闇鍋やらない?」と誘われて、山で適当に拾った山菜や深海からとってきた魚のような生き物や月から拾った石や、我がスパイ会社2Yroyalの機密実験室から持ち出した怪しい液体やらを全部ぶっこんだのだ。
もちろん、二人ですべてたいらげた。
なぜそんなことができるかといえば、原則この二人に毒が効くことはないからである。
ミス7はトリカブトをよく拾い食いしているし、ミス6も毒に耐性があり、危ない会食に出席する任務などをよく任せられる。
ミス6は毒を食べて、グルメリポーターのように「美味しい」「酸味が効いてない、不味い」「甘味があって、吸収率が高い」「これは生、これはインスタント」などなど評価できるだけの舌を持つ。
ミス7は基本バカ舌……失礼、味音痴なので、毒を食べても違いなんてわかるわけはないが、かわりに全部美味しくいただく。
もし万が一毒があたっても、内臓を都合よく動かして、無理やり消化したり解毒したりできる。
二人はそういう、もうほぼ人外みたいな宇宙人スパイなのだ。
____だがしかし。
『原則』、である。
ミス7はどうしても、キノコがだめだった。
唯一食べられるのはキクラゲくらいである。というかミス7はキクラゲはクラゲの一種だと信じて疑っていない。
それ以外の、しいたけとかまつたけとかなめことかは、ミス7は本当に無理だった。
ゆえに、毒キノコを食べると、キノコへの拒否反応(と本人は言っている)から解毒が体内でうまく働かないらしく、たまにこんなことに陥る。
一年通して健康体のミス7が、稀に体調不良を起こす瞬間である。
しかし今回、不幸はそれだけでは終わらない。
ミス7はおそるおそる枕もとの時計を見て、それから壁にかかった時計を見て、カレンダーを見て、今日の日付を確認する。
「あああああああああああ……」
現実を理解したミス7の口から、腹痛を起こした雪男の声を加工して数倍野太くしたような唸り声がもれる。
「うそおおおおおおおおおお………………」
何度見なおしても、本日の日付は二月十二日。
つまり、ミス7が一年くらい前からずっと楽しみにしていた、ミス7の誕生日だった。
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