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「そういう人として最低なことを日頃からしてるからバチが当たったんじゃないの? 誕生日早々体調不良なんて縁起が悪くて嬉し……心配ね」
「今本音が漏れたわよ? 聞いたわよ? 私は聞いたからね??」
「高熱による幻聴ね」
「今すぐ出て行ってほしい……」
もぞもぞと布団に潜りこみ、丸くなるミス7。
「病人に対して労わろうという気持ちはないの?」
「あら、あなた病人だったのね。さっき茶番劇の練習をしてたみたいだったから、てっきり仮病かと」
「茶番劇じゃないわ! 誕生日への私のあふれんばかりの想いを言の葉に乗せてこの部屋の隅に居る私という小さな宇宙に響かせていたの!」
ここで「忘れてよ恥ずかしい!!! やめて!」となるどころかさらに黒歴史を重ねるのがミス7である。人として恥ずかしくないのだろうか。
「もう出て行ってくれないかしら。私はハイスぺスパダリイケメン彼氏(誕生日)と別れて昇進中なのよ」
「傷心ね。昇進だとおめでたくなるわね」
ミス6はどこからともなく林檎を取り出し、くるっと一回転させる。
刃物も何も持っていなかったのだが、その一回転で早着替えのように林檎の皮が全て剥け、色が赤から黄色へ変わった。
さらに一回転させると、手のひらの中でりんごは八等分され、どこからともなく取り出されたお皿の上に瞬間移動した。
「はいどうぞ、毒入りだから安心して食べてね」
「つまりそれは私のことを世界一美しい白雪姫だと言いたいのね?」
「思ったより元気そうだから、早いところお腹をくだしてもう一週間くらい静かにしやがれって言いたいのよ」
「ふふん、ついに私の方が美少女だと認めたわねミス6」
「もうツッコむ時間も人生の無駄ね」
ドヤ顔で林檎をぺろっとたいらげるミス7を、ミス6は冷めた目で見ている。
「社長からの命令じゃなければ、今すぐあなたをベッドから叩き落して、私は任務に行けたのだけど」
「えー、また社長の命令? ミス6それ好っきよね~。あんなだらしない社長失格の命令なんか適当に無視しとけばいいのよ」
そう言うが、この世界中に上司からの命令を無視して部屋でダラダラゴロゴロゲームしつつポテチをつまむスパイがいったい何人いるだろうか。
社長は基本的に血が嫌いなので、任務遂行できなかったからと言って拷問したり口封じすることはないが、それにしたって2Yroyalの他のエージェントはきちんと上司命令を守る。
ミス7はもっしもっしと林檎をたいらげ、「スパイたるもの上司に縛られちゃだめよ。命令と規則と約束と常識は破るためにあるのよ。真のエージェントは、上司からの命令を大人しくきくなんてこと絶対しないんだから」などと正気の沙汰ではないことを言い出した。
念のため確認しよう、彼女は裏社会に名を馳せる超一流エージェントである。
聞く人が聞けば震えが止まらず理性を失うレベルで恐れられている、ミス6と並んで会社一腕のいいスパイなのである。
そろそろその称号を剥奪すべきだと思う。
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