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第2章 橘 日和 - たちばな ひより -
蛍雪高校の校舎は広い。
世間ではもっぱら少子化問題が取り沙汰されているにも関わらず、小等部、中等部、高等部を併せれば、万単位近くの生徒数がいる。
余談だが、エスカレーター式のこの附属学校らを運営する私立大学もまた日本屈指の名門大学だ。
そのまま大学への入学を目指す者が大多数だが、国立の名門大学に進学する者も沢山いる。
もちろん、海外留学や有名企業へ就職を果たす者もだ。
生徒達がどのような道を選んだとしても、将来そこで一流の人間になれるように、ケアやサポートが充実している学校なのだ。
そして、創立百周年を迎えた学校ということもあり、生徒数に相応しく校舎は、更に大きく建て替えたばかりで、最新の設備や施設が揃っていた。
広さもちろんのこと、その空間はモダンデザインで統一されていた。
入学してきたばかりの生徒達は、殊更興奮して、
「今日から、自分はこの高校の生徒なんだ」
と、特に外部から進学してきた生徒達は張り切っているように見えた。
――ザワザワ
入学式が終わり、廊下や教室の入り口付近は自分のクラスや席を探す生徒達で溢れかえっていた。
真己もまた、その生徒達のうちの1人だった。
「えっと、1ーAはこっちで、席は後ろから二番目か」
ふぅ、とため息をついて、何とか新入生代表として答辞を読み終えた真己は安堵の表情を浮かべていた。
(無事に終わってよかった。それも、あの綺麗な子のお陰……って)
「あ!」
「あれ?」
入学式で出会った美少女がいた。
「ビックリした! 同じクラスだったんだ。しかも席も隣だったなんて……」
「そうみたいだね」
ニコッ、絶世の美少女から極上の微笑みを向けられ、真己は同性ながらもドキッとした。
荷物を席に置いて座ろうとする彼女の所作の美しさ、一挙一動を惚れ惚れとして見つめていた。
(よく見たら、背も高いしスタイルもいいな……モデルさんみたい)
「さっきはありがとう。お陰で助かった」
真己は頭を下げて、礼を述べた。
「ううん、私は何もしてないよ。お礼を言うならあの先輩に言わないと」
「クスッ」
二人一緒に吹き出した。
もちろん冗談なのは真己も分かっていた。
ただ、誰かとこうして笑いあったのは本当に久しぶりだった。
あの先輩には申し訳ないが、ネタにさせてもらった。
一通り笑い合ったところで、真己がまだ目の前にいる彼女の名前を知らないことに気づいた。
「ごめん、自己紹介してなかったね。改めて私、内海真己。よろしく」
「橘日和です。こちらこそ、よろしく」
(この子と仲良くなれるかな……)
期待を膨らませて、胸が高鳴る真己の隣の席で座る橘日和と名乗った女子生徒は、それはそれは美しい女の子だった。
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