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やっと真己は気づいた。
そして前列に座っている生徒達もヒソヒソと声を潜めて笑っていた。
理由は、生徒会長の社会の窓……いや、正確に言うと、ズボンのチャックが全開だったのだ。
水玉模様の生地が真ん中からひょっこり顔を出していた。
彼も周囲が少しずつざわつくのに気付いたのか、階段を歩こうとする足が少し止まり――
はっ……生徒会長が自分のチャックが開いてることに気付いた。顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かった生徒会長――
そして、残り数段しかない階段を盛大に踏み外し――
「うわあぁぁぁぁ」
ガタガタッ
ドターン
まるで漫画のような悲鳴と擬音の騒音が、入学式の会場に響いた。
そして地面に突っ伏したチャック全開ちょ……いや、生徒会長。
前列にいた生徒ばかりか、後方に座っている生徒達も何事かとザワザワと騒ぎ出した。
「えー、何?」
「誰か階段から落ちたみたい」
「痛そう」
しかし事実を知っている人間はまだ少ない。
段上の舞台袖で控えていた生徒会の役員が、すぐに気付いて動き出した。
「さっさと会長を片付けて次に進めて」
「は、はい!朱紗先輩」
返事をした生徒会の役員達を筆頭に、何人かが壇上から降りて生徒会長に声を掛けていた。
「どうせ僕なんて……僕なんて」
皆の視線は、床でウジウジ泣いている生徒会長が独り占めしている状態だったが、朱紗と呼ばれた女子生徒だけは違った。
彼女は、真己達が座っている方角を眉をひそめて静かに見つめていた。
「うわー……」
真己はなんとも言えない表情と乾いた声で目の前の惨事を見つめていた。
「本人も気づいたみたいだね」
「よく分かったね」
「ここ最前列だもの。それにあの生徒会長、こういう事で有名だから」
「どう?あそこまでは失敗しないでしょ。これで、少しは緊張が解れた?」
「……」
余計緊張するわ!と言う言葉を真己は飲み込み、引き攣った表情を見られないように顔を逸らせて、
「うーん、あそこまでは失敗しないかな。ははは……」
俯いて、真己はまた自分の殻に閉じ篭ろうとすると、
「ごめんなさい。余計に緊張させてしまったかな?」
「ううん……大丈夫、多分」
そう言ったが、これ以上ないくらいに真己は緊張していた。
拳を握りしめながら俯いて今にも泣き出しそうな彼女の視界に、美少女の綺麗な両手が入った。その手は、真己の握った拳の上に置かれていた。
そして、真己の顔を覗き込み、美少女はこう言った。
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