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世界ホームメイドミールグランプリ
親父はわざとらしくうめきながら、空港でバスを降りて行った。
この、だだっ広い青空会場に着いたのは、俺と、仁音さんだけ。がやがやと様々な国の人達が、テントの下の割り振られたスペースで準備をしている。
ステージの方に行ってみると、千人規模の観客席に、ステージ上にはキッチンが十台と審査員席が設営され、ライティングのテストが行われていた。巨大なバックスクリーンには料理人達の手さばきが映し出されるようだ。
見渡せば、大小様々なカメラがステージを狙って設置され、首から名札をぶら下げた人達がカメラや照明、音声の道具を持って歩き回っている。
嘘だろ……?
こんな状況下で、俺がオムライスを作るっていうのかよ……?
ぶるっとして、首を振った。
仁音さんも横で、「ひえー、緊張するねえ」ときょろきょろしている。
俺と仁音さんは控えスペースに戻り、届けられた俺達のいつもの調理器具やデミグラスソース、食材達にぴったりと寄り添い、親父の動画を開いて心を落ち着かせた。何度も何度も繰り返し、親父の動画を見た。鬱陶しいポジティブを全面に出しながら、神技のごとく仕上げていくふわとろオムライス。俺にこんな妙技が出来るはずはない。それでも、俺はバスの中で親父に渡された小さな勇気を、ポケットの中で握り締めた。
しばらくして、ドスンドスンと胸高鳴る音楽と共に司会者の声が響き、先のグループの本番が始まった。司会者の声と、炒めたり煮込んだりする音、観客の拍手や歓声が聞こえてくる。様々な香りも漂って、もうこの空間にいるだけで、料理人達の躍動感がじゅうぶん伝わって来た。
「日本チームの皆さん、お願いします」
慌ただしく動き回るスタッフに、ついに俺達は呼ばれた。
俺の心は、この地に着いた時の倍、いや十倍、どっくどっくと踊り出した。
エプロンの紐をきゅっと結び直す。コック帽をくくっと整え、完全装備した俺は、俺達の武器を抱えて、仁音さんと共にステージに上がった。
指定されたキッチンに、共に闘う武器達を並べる。
「大丈夫、楽しみましょ」
仁音さんは、つくづく親父の流派を継いでいると思う。自分だって震えているくせに、俺の腕をぎゅっと掴んで、にっこりと笑顔を作ってくれた。
各国のチームの準備が整ったところで、司会者が声を張り上げた。
大きな拍手と、ぴかぴか輝るライト、盛り上げ上手な音楽と無数のカメラが、俺達を照らし出した。
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