世界ホームメイドミールグランプリ

1/1
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

世界ホームメイドミールグランプリ

 親父はわざとらしくうめきながら、空港でバスを降りて行った。  この、だだっ広い青空会場に着いたのは、俺と、仁音(ひとね)さんだけ。がやがやと様々な国の人達が、テントの下の割り振られたスペースで準備をしている。  ステージの方に行ってみると、千人規模の観客席に、ステージ上にはキッチンが十台と審査員席が設営され、ライティングのテストが行われていた。巨大なバックスクリーンには料理人達の手さばきが映し出されるようだ。  見渡せば、大小様々なカメラがステージを狙って設置され、首から名札をぶら下げた人達がカメラや照明、音声の道具を持って歩き回っている。  嘘だろ……?  こんな状況下で、俺がオムライスを作るっていうのかよ……?  ぶるっとして、首を振った。  仁音(ひとね)さんも横で、「ひえー、緊張するねえ」ときょろきょろしている。    俺と仁音(ひとね)さんは控えスペースに戻り、届けられた俺達のいつもの調理器具やデミグラスソース、食材達にぴったりと寄り添い、親父の動画を開いて心を落ち着かせた。何度も何度も繰り返し、親父の動画を見た。鬱陶しいポジティブを全面に出しながら、神技のごとく仕上げていくふわとろオムライス。俺にこんな妙技が出来るはずはない。それでも、俺はバスの中で親父に渡された小さな勇気を、ポケットの中で握り締めた。  しばらくして、ドスンドスンと胸高鳴る音楽と共に司会者の声が響き、先のグループの本番が始まった。司会者の声と、炒めたり煮込んだりする音、観客の拍手や歓声が聞こえてくる。様々な香りも漂って、もうこの空間にいるだけで、料理人達の躍動感がじゅうぶん伝わって来た。  「日本チームの皆さん、お願いします」  慌ただしく動き回るスタッフに、ついに俺達は呼ばれた。  俺の心は、この地に着いた時の倍、いや十倍、どっくどっくと踊り出した。  エプロンの紐をきゅっと結び直す。コック帽をくくっと整え、完全装備した俺は、俺達の武器を抱えて、仁音(ひとね)さんと共にステージに上がった。  指定されたキッチンに、共に闘う武器達を並べる。 「大丈夫、楽しみましょ」  仁音(ひとね)さんは、つくづく親父の流派を継いでいると思う。自分だって震えているくせに、俺の腕をぎゅっと掴んで、にっこりと笑顔を作ってくれた。  各国のチームの準備が整ったところで、司会者が声を張り上げた。  大きな拍手と、ぴかぴか輝るライト、盛り上げ上手な音楽と無数のカメラが、俺達を照らし出した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!