雪の思い出

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 ふわりふわり降る雪を見ると、あの時のことを思い出す。  付き合っていた彼とデートの日。  その日は朝から雪だった。私が住んでいたところではそんなに降らない雪が、珍しく積もり始めていた。  たまたま公園のそばを歩いていたとき、彼が突然言い出した。 「ねえ、雪合戦しようよ」 「はあ?」  私は呆れて苦笑いするしかない。 「子供じゃないんだからさ、恥ずかしい」 「いいじゃん。こんなに積もるの滅多にないんだから」 「嫌よ、もう」  私は公園のベンチに座った。  寒かったけど、降る雪を眺めているのは悪い気はしなかった。  すると彼は「ほら」と言って雪のかたまりを私に見せた。 「いくよ」  彼はその雪のかたまりを軽く私に投げてきた。 「もう、やめてよ」  ほんとにバカじゃないのと思いながら、ふと気づいた。  私の膝の上でくずれた雪のかたまりの中から何かが出てきた。  ガチャガチャでよく見るような小さなカプセルだ。 「開けてみてよ」 「なに?」  カプセルを開けてみると、中からおもちゃの指輪が出てきた。 「ごめん、ちゃんとした指輪は買えなかったから…よかったら僕と結婚してくれませんか」  跪いてプロポーズした彼の頭に雪が降るのを私はずっと見ていた気がする…  窓から外を眺めながらそんなことを思い出していると、夫が娘を連れてきた。 「雪降ってるし、ちょっと遊んでくるよ」 「うん」 「ママも一緒に行こうよ」  娘が私を誘ってくれた。 「そうね、行こっか」  私は娘と手を繋いで外に出る。  娘の指には、あのとき私がもらったおもちゃの指輪が綺麗に輝いていた。              THE END
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