🟢新緑のプラタナス

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 瞬時に周りの輝く水が蒸発した。  川そのものがたちまち消えて、きらきら光る白い靄が現れる。  靄に包まれた凪人は、川底だった地面に足を下ろす。  間近に迫っていた魔獣は、どうなったのだろうか。  おそるおそる振り返ると、巨大な姿が跡形もなく消えていた。  一歩、対岸だった場所へ踏み出してみる。進むたびに空中で光の粒が輝く。  途端に一陣の風が吹いて、靄が晴れていった。  ずっと後ろの方、川底の真ん中辺りにたたずんでいる人影が見える。  背が高い淡島、小さい悠紀、父と母。  風がいっそう強くなり、靄が完全に吹き飛ばされていく。  皆の姿がくっきりと見える。  淡島が、無表情のままで凪人を見つめていた。  その横にいる亜矢乃は、何か言いたげだ。  母は、対岸を眺めていたのと同じ表情でこちらを見る。  父親が母の両肩に手を置いて、ぎゅっとつかむ。  4人の様子に、凪人の胸の奥から温かく湿ったものがこみあげる。  だが、凪人は、横にもうひとり、線の細い影が立っているのに気がついた。  川の渡し守の老人だ。あの老人も一緒に見送るというのか――。  ところが、さらにその左にもうひとつ、黒い影がたたずんでいた。  冥府の使者だ。  どうして――と思う間もなく、使者は黒いローブをはらりと脱いだ。  凪人は吃驚する。  この冥府で出くわした数々の物事の中でも、一番の驚きだ。  あれは――波子じゃないか。
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