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瞬時に周りの輝く水が蒸発した。
川そのものがたちまち消えて、きらきら光る白い靄が現れる。
靄に包まれた凪人は、川底だった地面に足を下ろす。
間近に迫っていた魔獣は、どうなったのだろうか。
おそるおそる振り返ると、巨大な姿が跡形もなく消えていた。
一歩、対岸だった場所へ踏み出してみる。進むたびに空中で光の粒が輝く。
途端に一陣の風が吹いて、靄が晴れていった。
ずっと後ろの方、川底の真ん中辺りにたたずんでいる人影が見える。
背が高い淡島、小さい悠紀、父と母。
風がいっそう強くなり、靄が完全に吹き飛ばされていく。
皆の姿がくっきりと見える。
淡島が、無表情のままで凪人を見つめていた。
その横にいる亜矢乃は、何か言いたげだ。
母は、対岸を眺めていたのと同じ表情でこちらを見る。
父親が母の両肩に手を置いて、ぎゅっとつかむ。
4人の様子に、凪人の胸の奥から温かく湿ったものがこみあげる。
だが、凪人は、横にもうひとり、線の細い影が立っているのに気がついた。
川の渡し守の老人だ。あの老人も一緒に見送るというのか――。
ところが、さらにその左にもうひとつ、黒い影がたたずんでいた。
冥府の使者だ。
どうして――と思う間もなく、使者は黒いローブをはらりと脱いだ。
凪人は吃驚する。
この冥府で出くわした数々の物事の中でも、一番の驚きだ。
あれは――波子じゃないか。
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