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両手を持ち上げて視界に入れ、指を曲げ伸ばししてみた。
右の人差し指の先に、洗濯バサミの形をした機械が取り付けられている。
多少はしびれているが、普通に動かせる。
見慣れた手なのに、節くれ立って皺だらけなのが妙に気になった。
「よかったあ、父さん」
三女の阿須佐はベッドのシーツをぎゅっとつかんで、ぽろぽろ涙をこぼしている。語学留学でケアンズにいたはずだ。帰国してきたのか。
「私たちを呼べばよかったのに。あやうく死ぬところだったのよ」
すぐそばで、照麻がまた大声を出す。
凪人は顔をしかめた。うるさくてしかたがない。
そういえば――。
「丈瑠、丈瑠は?」
口に透明のマスクが被せられ、言葉がくぐもって届かない。それでも、照麻は凪人の口元に気づき、声を和らげた。
「ああ、丈瑠は大丈夫。別の病室で休んでる。深いところで足が立たなくなって、うろたえてしまったみたいだけど、すぐ意識が戻ったわ」
無事だった。凪人は息をつく。マスクが白く曇る。
「ありがとう父さん。丈瑠を岸まで連れ帰ってくれて」
心なしか、照麻の声に涙が混じる。
やっと鈿音をあやしつけた月詠がベッドの傍に来て、ぼそっとつぶやく。
「あらためて精密検査を受けた方がいいわね」
そのとき、看護師が部屋に入ってきた。
ベッドから離れるように言われて、カーテンの前に娘の顔が並ぶ。
仕切りたがりだが頑張りすぎてしまう照麻。
控えめな皮肉屋の月詠。
素直で甘えん坊の阿須佐。
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