🟢新緑のプラタナス

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 両手を持ち上げて視界に入れ、指を曲げ伸ばししてみた。  右の人差し指の先に、洗濯バサミの形をした機械が取り付けられている。  多少はしびれているが、普通に動かせる。  見慣れた手なのに、節くれ立って皺だらけなのが妙に気になった。 「よかったあ、父さん」  三女の阿須佐はベッドのシーツをぎゅっとつかんで、ぽろぽろ涙をこぼしている。語学留学でケアンズにいたはずだ。帰国してきたのか。 「私たちを呼べばよかったのに。あやうく死ぬところだったのよ」  すぐそばで、照麻がまた大声を出す。  凪人は顔をしかめた。うるさくてしかたがない。  そういえば――。 「丈瑠、丈瑠は?」  口に透明のマスクが被せられ、言葉がくぐもって届かない。それでも、照麻は凪人の口元に気づき、声を和らげた。 「ああ、丈瑠は大丈夫。別の病室で休んでる。深いところで足が立たなくなって、うろたえてしまったみたいだけど、すぐ意識が戻ったわ」  無事だった。凪人は息をつく。マスクが白く曇る。 「ありがとう父さん。丈瑠を岸まで連れ帰ってくれて」  心なしか、照麻の声に涙が混じる。  やっと鈿音をあやしつけた月詠がベッドの傍に来て、ぼそっとつぶやく。 「あらためて精密検査を受けた方がいいわね」  そのとき、看護師が部屋に入ってきた。  ベッドから離れるように言われて、カーテンの前に娘の顔が並ぶ。  仕切りたがりだが頑張りすぎてしまう照麻。  控えめな皮肉屋の月詠。  素直で甘えん坊の阿須佐。
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