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3人ともどこか目が離せず、一人前というにはまだちょっと早い。
だから波子は、あの姿を借りて追い返したのか。
まだしばらくは3人を見守っていてくれ、と。
それにしても……もう少し別のやり方はなかったんだろうか。
いや、自分のことだ。
再会したら頑固に冥府に残ろうとしただろう。
凪人は自嘲気味に心の中で笑った。
だから波子は、無理やりでもこちらの岸に渡らせようとしたのか。
波子の顔が浮かんでくる。
声が聞こえたような気がした。
しばらくはそっちにいてね。そのうち逢えるわ。
凪人が意識を回復して安心したのか、照麻は並びながら軽口をたたく。
「水泳部にいたことをいつも自慢してたのに、だらしない」
月詠が淡々とそれに応じる。
「元気になったら、荒川の河川敷でも走ったらいいんじゃない?」
凪人は思う。
いや、もうしばらくは荒川には足を向けたくない。でも――。
――あなた自身の身体のことよ――
波子の言葉が凪人の脳裏によみがえった。
基礎体力は大事だと身に染みた。
回復したら、自分のために、娘たちのために、ランニングをまた始めようか。それに水泳も。
「お母さんは、お父さんに逢えなかったって悲しんでるかなあ」
阿須佐が窓の外を眺めたままで尋ねる。
ふたりの姉も、つられて見た。
凪人も、自由に回らない首を少し動かして、横目で窓の外に目をやる。
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