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 我に返った直人は、後を追いかけ、彼女のホームへの登り口の所で息を弾ませながら、 「いつ、辞めるんですか?」 「……明日」 「明日!?」  大きな声に、通路を歩く人々が、またしても直人を見る。 「ごめん。上司と、引継ぎ相手の順子さん以外には知らせないようにしてもらってたの。本当は、誰にも言わずに辞めるつもりだったけど……」 「……どうしてですか?」 「それは言わせないでよ」  と言って、直人の目をじっと見つめる美香の瞳が潤んでくる。  ひと呼吸の後、美香が明るいトーンで、 「ごめん。今日はいっぱい驚かせちゃったね」 「あっ、いえ……」 「じゃあね」 「送ります。ホームまで」 「いいよ。杉田くんの乗る電車も来ちゃうじゃん」 「そうですけど。送らせてください」 「……うん。いいよ」  仕方ないなぁ、というふうに微笑みながら頷いてくれた。  並んで階段を登る。  ホームに出たところで、ちょうど電車が入って来た。  乗り込んだ美香は、ドア際に立ち、直人を振り返る。そして、可笑しいという顔で、 「なんか、恋人同士みたいだね」 「……みたい、ですか?」  直人が真面目な声で訊き返す。  美香はまた、しょうがないなというふうな微笑を向け、 「杉田くんも、いい人見つけて頑張れ!」  その言葉が合い図のように、プシューッとドアが閉まった。  ゆっくりと動き出す電車。  無意識のうちに、直人も追いかける。  段々と置いていかれ、最後、ホームの端に立つ。  美香は、見えなくなるまで手を振ってくれていた。
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