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 早大生たちで賑わう、春の学生街を、直人は休日を利用し、妻と二人で歩いていた。  社内恋愛の末、結婚した妻は、同じ早大出身。  いつか二人で母校の街を歩きたいね、と言いながら、子育てに追われ、長い年月が過ぎてしまっていた。  卒業以来、20年も経った街並みは、だいぶ変わっていた。 「あれ、なんかお洒落なお店!私たちが居た頃には無かったよね?」 「確かに、そうだね」 「歩き疲れたから、ここで休もうよ」 「おっ、いいね」  そう言って二人がドアを開けたのは、西洋のお菓子屋さんのような可愛らしい喫茶店。  早大は、バンカラなイメージで知られている。直人たちが在学中にはなかった造りの店だった。 (そう言えば、倉澤さんが手伝うと言っていた喫茶店も、この辺りじゃないのかな……?)  そんなことを思い出しながら入った店内は、女子大生たちの談笑する声で溢れていた。 「へぇ、可愛いお店!」 「なんか、時代が変わったよなぁ……」  おとぎ話に出てきそうな、少女や小動物のぬいぐるみが置かれた窓辺の席に、二人は座る。  あれこれと思い出話に花を咲かせているうちに、注文していたケーキセットが運ばれてきた。  そして、前にそっと置かれたカップに目を向けた時、直人は思わず「えっ」と息を呑んだ。 (これは……)  忘れるはずのない、淡い色の小さな花柄のティーカップ。 (まさか!)  妻の後方の、カウンターの奥に視線を向けると、2人の男女が、忙しそうに作業をしていた。  一人は、60歳ぐらい見える、上品な白髪の、マスターと思しき男性。もう一人は、大きめのメガネの、直人たちと同世代の女性。長い髪を、後ろで縛っている。  その女性が、直人の視線を感じたかのようにこちらを見た。  お互いの視線が交わり、時が一瞬止まる。 (倉澤さん!)  直感が走った。20年の月日は流れても、面影は残っていた。  女性も同じことを感じているように見えた。 「美味しーい!」  妻の歓声で、少し現実に引き戻された直人は、おもむろにカップを手に持ち、紅茶をひと口飲む。  そのまま、もう一度視線を女性に戻す。  彼女もまたこちらを見る。続いて、直人の持つカップに、チラッと瞳が動くのが分かった。
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