12人が本棚に入れています
本棚に追加
トイレから戻る途中、コピー機の前で首を傾げている美香を見かけ、
「大丈夫ですか?」
立ち止まって声をかけると、
「あっ、ごめんなさい。杉田さんもコピー使いたいんですよね?」
慌ててカバーを持ち上げ、原稿を拾い上げようとする。
「いえいえ。僕はたまたま通りかかっただけですよ。それより、倉澤さんが困ってるみたいだったから」
「そうなんですよ……これ、両面コピーってどうやるんですか?」
(よし来た。得意分野!)
心の中でガッツポーズしながら、
「ここを押して……」
と説明しつつ、コピーをとってあげると、美香は、
「杉田さんさすが!ありがとうございます」
一礼とともに笑顔を見せる。その後で、少し顔を近づけてきて、
「何となく聞きづらくって……」
小さな声で言いながら、チラッとオフィス内に目を向けた。
その視線の先では、黙々とデスクに向かって仕事をする社員たち。
「遠慮しなくてもいいんじゃないんですか?倉澤さんは新人なんですから」
直人も新人、それに年下なのに分かったようなことを言うと、彼女は小さく首を振って、
「私は新人って言っても、中途だから、このくらいはってね」
と苦笑してから、
「ありがとうございました。今週は2回目ですね。助けてもらったの。コピー機つながりで」
この間と同じように、白い歯を見せて去っていった。
(今週は2回目!)
そう。直人も同じことを思っていた。
直人の美香への思いが一気に膨らみ、溢れようとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!