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 年が明けた。  直人は、美香にひとつのプレゼントを渡した。  1月生まれの彼女への、誕生日プレゼント。それは、彼女のイメージの、淡い色の小さな花柄のティーカップ。 「ありがとう」  嬉しそうな笑顔で受け取ってくれたけど、 (使ってくれるかな)  次の日から、直人は、お茶を飲む美香の手元に注意が行くようになった。  しばらくは、いつものカップだった。  けど、ある週明けの月曜日。  食堂から戻ってきた彼女の右手を見て、 (やった!)  机の下で小さくガッツポーズ。同時に、気恥ずかしさ。  と、彼女と、その隣の席の中年女子社員の会話が聞こえてきた。 「へぇ、美香ちゃん、そのカップ可愛いじゃん。新しいの買ったの?」 「あっ、いえ。頂き物です」 「えっ?もしかして……」 「違いますよ!」  楽しげに笑い合う二人の声。  否定はしながら、嫌そうでもなくて、ホッとしつつ、こそばゆい感覚になる。  その日から、3時頃になると、毎日のように、彼女に休憩を合わせるようにした。  いつものように談笑しながらも、恥かしくて、カップを使ってくれていることには気づかぬ振りをしていた。  当然、彼女は、そんなことぐらい見抜いていただろうけれど。  ところが……。  2月に入った頃から、美香の態度が急にそっけなくなった。  3時の休憩で食堂に行った時も、いつもなら、そこで数分ほど話をするのに、チラッと直人を見ただけで表情も変えず、 「お疲れ様です」  すぐに席に戻ってしまう。話しかけるチャンスを与えないかのように。  何日か経った後で、すれ違いざまに席に戻ろうとする美香に、 「倉澤さん、ちょっと話したいことが……」 「ごめんなさい。今日忙しいんだ……」  直人が言い終わらぬうちにそう言って、足早に去ってしまった。 (なんで?嫌われた?)  訳が分からず、悶々とする直人。一方で、カップは使い続けてくれている。 (なら大丈夫。嫌われてはいない)  白か黒か、心の中でオセロが激しくひっくり返るような感覚に、心が段々と疲弊していく……。
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