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大人になった
「降ってきたね」
窓の外を見て、友人の桜子が呟いた。
「うわ本当だ。もうそんな時期かぁ〜。私、夏生まれだから寒いの苦手なんだよな〜」
パラパラと降ってくる白い粒雪を見て、夏菜がこたつの天板に顎を乗せてボヤく。夏菜は毎年同じことを言っている。
「天気予報当たったじゃん。先週スタッドレスに変えておいて良かったわ」
久しぶりに集まった幼馴染3人。
ビールや日本酒、ワイン等、其々が好きなものを持ち寄って家飲みしていた。
同い年で家が近く、保育園の頃からの付き合い。くだらないことで笑い合う幼馴染3人は、それぞれの親からも呆れられるほど仲が良い。呆れている親同士も仲が良いのだけれど。
「今日は全国的に降るって言ってたよ。九州でも降るとか」
「あー。九州の人は雪に慣れてないだろうし、大変だね」
雪慣れしていないと思われる地域に雪が降るというニュースを見ると、毎年同じことを言っている。
「東京も積雪で交通網が麻痺だって」
「何センチ?」
「5センチ」
「はぁ〜?」
「5センチで学校休みだってさ」
「嘘でしょ。ネタでしょ。5センチで学校休みとか。こちとら50センチ降ったところで電車もバスも走るわ」
「なんなら体育の授業はクロカン(クロスカントリースキー)だわな」
「それな!」
これも毎年同じことを言っている。
滑ってコケる都会人の映像を見ては失笑する。
東京の人達だって雪慣れしていないはずなのに、この手のニュースが流れると、雪国人はこれでもかと東京をこきおろす。
別に東京が嫌いなわけではないのだが。
……たぶん。
「昔は雪が降ってきたらめちゃくちゃテンション上がったのになぁ。今は明日の朝除雪で早起きしなきゃとか、都会から来るお客さんのキャンセルとか。心配しかないよな」
「つまらない大人になってしまったのだよ。ね、ミッちゃんまだビールある?」
あるよ、と廊下に置いてあるスーパーの袋からビールをひとつ取って夏菜に手渡す。
良いんだか悪いんだか、冷蔵庫に入れなくても、廊下に置いておけば十分飲み頃に冷えている。
ねぇねぇ、と桜子が前のめりになりニヤッと笑う。
「たまに、“おそら”で学校行くの楽しみじゃなかった?」
その単語を聞いて、夏菜がのけ反った。
「うわー!懐かしい!“おそら”って言葉自体久々に聞いたわ」
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