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小学校の思い出
「やった!今日は“おそら”だ!」
週末に腰の高さほど降った雪が、昨日の夜の低温でカッチカチに固まっていた。玄関先の積もった雪を素手ですくおうとしても、硬くて、ガリッとして痛かった。
長靴を履いて外に出て、積もった雪の上に体重をかけてみると、足が沈まずに乗ることができた。
「ちょっと、危ないから“おそら”で学校へ行くのはやめなさいって言ってるでしょ!」
お母さんの注意する声が飛んでくる。
「大丈夫だよ、今日はこんなにカチカチだし」
寒さが厳しい朝しかできない特別。
学校が終わる頃には気温が上がって雪が緩み、“おそら”はできなくなる。
お母さんは子供のロマンをわかっていない。
「ミッちゃんおっはよ〜」
「ユキちゃんおはよう!あ、その赤いマフラー可愛い!」
初めて見る鮮やかな赤色の新しいマフラーは、色白なユキちゃんにとてもよく似合っている。
「でしょ?白い雪にこの赤色はすごく映えると思うの」
なんだかユキちゃんの返答は大人っぽく聞こえた。
「それよりも今日は“おそら”だよ!はやく行こう!」
いつもの通学路は、十数軒の住宅と商店のある道を抜けて、両側に田んぼが広がるまっすぐな農道を通る。農道の最後、用水路にかかる短い橋を渡り、右に曲がって200メートルくらいで小学校の敷地に入る。
“おそら”の時には、農道を無視して田んぼの上を斜めにショートカットできるのだ。
「かたい!」
「かたいね!」
「こんなことしても全然ズボらない!」
言いながらユキちゃんが、硬く凍った雪の上でジャンプして見せる。
「でもユキちゃん、気を付けて」
言うと、ユキちゃんがニヤッと笑う。
「ランドセル重すぎてズボッて、長靴抜けなくなって泣きながら片方裸足で学校行った人がいるもんね。ウケる」
「ウケないよ」
そんな話をしながら“おそら”を行く。
田んぼを真っ白に覆い隠し、朝日でキラキラと光る雪の原を歩いていく。
運が良いと、ウサギの足跡が雪面に残ったまま固まっているのを見つけることもある。
アスファルトのように硬いけれど、汚れも人の足跡もない真っ白な雪の上を歩くのは、まるで雲の上を歩くような特別な気分。
大人は体重が重いからか、誰もやらない。
子供だけに許された特権だと思えた。
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