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大人になって
「ユキちゃんが落ちた時、僕も一緒にいたんだよ。あんまりにもショックで直後の事はよく覚えてないんだけど。あの時僕が勇気を持って“やっぱり止めよう”って言えてたらって僕……ずっとあの時の事が胸に引っかかって……」
あの出来事から15年も時が経った。
ユキちゃんが用水路に落ちて死んでしまった時の事を、僕は初めて人に話した。
“おそら”なんて言葉が話題に上がって、お酒も入って、僕は少し饒舌になっていたかもしれない。
「えっ、光雄、ちょっと待って、何の話してんの?」
「ユキちゃんて…………誰?」
桜子と夏菜が缶ビールを片手に半笑いで聞き返してくる。
「は?」
いや。
いやいやいや。
いくら小学校低学年の時の話でも、亡くなったクラスメイトを忘れるとかありえないでしょ。
二人とも、もうだいぶ酔っ払っているのだろうか?
「私たちの学年は6年間女子8人しかいなかったんだから。クラスメイトの名前忘れるわけないじゃん」
え?
「てか、クラスメイトに死人が出たら流石に忘れられないわ」
え?
「私達、集団登校だったじゃん」
「集団登校……」
僕は、ユキちゃんと二人で“おそら”通学した。
あれ?
そういえば、ユキちゃんとの記憶は“おそら”の通学しか思い出せない。
僕は本棚から小学校のアルバムを引っ張り出した。
「うわ〜!懐かしい!皆んな可愛いね〜」
「ホントだ!あ、お母さんもおばさんも若い〜!」
桜子と夏菜がキャッキャし始めたが無視してユキちゃんを探す。入学式の集合写真を一人ひとり確認するが、ユキちゃんがいない。
「あー!今思い出したけど光雄、あんたはよく遅刻して1人で走ってきてたよね」
夏菜が人を指差しながらまた笑う。
「そう……だったかな?」
「そうだよ!だから私達、光雄が退院した後は遅刻しないように迎えにきてあげてたじゃん」
ん?退院?誰が?
「そうそう。流石にミッちゃんが用水路に落ちた時は全校集会になったんだよ?“おそら”は絶対禁止になるし、登下校時には地域の見守り隊が付くことになったり。あの時ミッちゃんはしばらく入院してたから知らないだろうけど」
なんだって?
「僕が?用水路に落ちた?」
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