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ユキちゃん
「お邪魔しましたー。ミッちゃん、今日は場所提供してくれてありがと。また飲もうねー」
「うわ、酔い醒めるわ〜!光雄、寒いからここで良いよ」
他愛のない話で夜も更けて、雪が降る中、桜子と夏菜は歩いて帰っていった。
玄関先で手を振って見送った後、長靴を履いて外へ出てみる。露出している肌がひりつくような寒さだった。
降り始めはパラパラと細かい粒の様な雪だったのが、塊の大きな綿のような雪に変わってきた。このタイプの雪は、よく見ると六角形のいろんな形の結晶が見えるはずだけど、もうそれを探す好奇心は無くなっている。
「あぁ。今日は氷点下なんだね」
隣に立つ君に僕は話しかけた。
いつもニヤッと悪戯っぽく笑う君。
『おそら、いこう?』
赤いマフラーのユキちゃんは、氷点下になると毎年僕の前に現れる。
そして、今でも誘ってくる。
あの時ユキちゃんの誘いに乗ってユキちゃんを死なせてしまった僕。そしてそれをずっと黙っていた僕。そんな僕を恨んで現れる幽霊なのだと思っていた。
「君は元から人間じゃなかったんだね。“おそら”の妖怪?それとも妖精さんかな?」
ユキちゃんが僕を用水路に落としたのか、それとも逆に、用水路に落ちた僕を助けてくれたのかはわからない。
もうユキちゃんは、昔のように会話をしてくれない。
毎年、同じ言葉を繰り返す。
『 おそら いこう 』
「ごめんねユキちゃん。僕は雪を楽しめない大人になっちゃった」
僕がそう伝えると、ユキちゃんはつまらなさそうに唇を尖らせて、スウッと消えてしまった。
なぜかわからないけれど、ユキちゃんはもう二度と僕を誘いに来ないんだろうなと思った。
ユキちゃんが消えた場所をしばらく見つめていたが、ただのジャージ姿で外に出たことを思い出し、頭と肩に少し積もった雪を払って家の中へ戻った。
明日は家の前を除雪しないと車を出せないから、朝5時半……いや、5時起きだな。
了
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