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その日、最上の従兄弟兄弟達はアメオとユキトの家に集合した。
ニハルが犬達と戯れていると、段ボールを積んだ軽トラが到着する。
農家であるイチナとゴロウが持ってきた段ボールには野菜が入っていた。
「どれも今朝採りの新鮮野菜だよ!」
ガタイの良いゴロウは、正しく農家といった風貌で、その反面イチナは力仕事を嫌がりそうな印象の美貌である。
しかしイチナもなかなかの肉体派で、ゴロウが持っているのと同じくらい重い段ボールをどさりと置いた。
ニハル、ユキト、アメオは段ボールの中を覗く。
白菜、大根、蕪など、この季節ならではの野菜達が沢山入っていた。
「これは鍋しかないねえ」
「これだけ有ると、使いきれないよ?」
「残りはお土産ってことで」
段ボールを囲んで検討を付ける。
サダハルがいつきても食事にできるように、宴会の準備をすることになった。
ユキトとイチナが指揮を取り、台所に立つ。
イチナが慣れた手つきで白菜を切っていると、あ!とユキトはグリーンエメラルドの爪に気付いた。
「そのネイルのストーン、見た事無いけどマジリの新作?」
「うん。昨日お粧しに付けて貰った。ユキトのも新作?」
えへへ、と笑ってユキトは赤いネイルの右手を差し出す。
「うん!折角だからね。アメオさんも新しいのにしたよ」
「相変わらず仲良いね」
イチナが微笑ましく思うと、ユキトは、うん!と元気良く頷いた。
「サダハル、気付くといいね!」
こそ、と小声で言われ、イチナも小さく頷く。
二人で大量の野菜を切り終わった頃に、外からバイクの音が近づいてきた。
気付いた面々は、どたどたと玄関に詰め寄る。
ただいまあ!!と元気な声で青年が挨拶し、おかえり!!と負けないくらい笑顔で出迎えた。
サダハルの合流により、人が揃ったので宴会は開催された。
「今日は野菜鍋かー?」
「ちゃんとお肉も有りますよ!」
「出汁は豆乳にしてみた!」
わいわいと鍋を突きながら談笑をする。
その話の中心は、サダハルの旅だった。
今回は南の方に行ったらしい。彼の語る話は、その土地の名産品、グルメ、景色、人々の事だった。
普段遠出をしない最上の人々にとって、それは興味深いものだ。
七対の眼はサダハルに喰いついているが、中でもニハルとイチナの眼は射る様に見つめる。
その視線の熱さは、サダハル以外の者達は知っていた。
そんなイチナの心について、アメオはゴロウに訊いた事がある。
共に農家を切り盛りしているが、イチナはまだサダハルに心奪われているのではないか。
高校の時に付き合い、破局したとはいえ、イチナの想いは消えてはいないのではないか。
その質問に、ゴロウはきょとんとした。
「そうだとしても、イチナはサダハルと旅をするんじゃなく、俺と一緒に農家として暮らしているんだよ?それは俺を選んだって本心じゃないの?」
確かにそうだ。しかし、そうだとしてもそう言い切るゴロウの度胸に驚いたりした。
そんな事を思い出すアメオの皿にユキトが甲斐甲斐しく煮立った白菜を置く。
ユキト食べてる?とイチナに注意されても、その配膳スピードは変わらなかった。
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