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「はぁ〜!食べた食べたあ!」
よく食べるゴロウもそう言えば、宴は一旦終わりになる。
片付けをした後、最上達は着替えを持って外へ行く支度をし始めた。
この面子で揃えば食事の後へ銭湯に行く。それは昔からの暗黙の了解だった。
その銭湯は最上達が幼い頃から世話になっている所で、番頭とも顔馴染みだ。
「いやー、やっぱ此処の銭湯が一番疲れ取れるわ!」
ニハルの隣に入ったサダハルは気持ち良さそうにそう言う。
「此処、特に効能とか無いはずだけど」
「みんなで入れるってとこが良いんだよ」
科学的ではないが嬉しい言葉だった。
「思い出すなー!ちっさい頃アメオとユキトが潜水とか犬かきで勝負してたし、ゴロウはすぐ飛び込むから怒られてたなあ」
ニハルはそれよりも小さな頃の話だから、そうだっけ、としか言えない。
そうのんびりしている間も、ニハルはタトゥー隠しのシールが禿げないか気になって腰を触っていた。
銭湯を楽しんだ後、六人並んで帰路へつく。
夜の風は熱った体に優しかった。
六人で道を行けば目立つものだ。
「おっ!委員長じゃ〜ん!」
だから、その不良達に見つかるのも不思議ではなかった。
片手に酒缶を持った二人組は、ニハルのクラスメイトだ。
ニハルが何か言う前に、酔っ払った不良組はゲラゲラと笑った。
「なんだあ?銭湯帰りって感じ?委員長刺青いれてんのに入れたんかあ?」
言われたくない事を言われ、ぞわりと怒りが沸く。
「あ!他のにーちゃん達も刺青有る感じ?やっだあかあっくい〜!」
悪意の有るからかいに、ニハルは拳を握り締めた。
殴ってやろうとした拳は、大きな手に包まれる。
はっとして見れば、五人の従兄弟達は、冷気と殺意を込めた眼で不良達を睨んでいた。
五人にも圧を掛けられ、流石に酔っ払った二人は萎縮する。
じ、じゃあな、と覇気無く呟き、そそくさと通り過ぎた。
その後、アメオとユキトの家に着くまでの記憶は無い。
がちゃり、と玄関の扉を開けた音で、やっと脳が働いた。
それまで全員無言だった中、イチナがエアコンつけっぱで良かったね、と言ってやっと空気が緩む。
そして、その無の帰路でずっとサダハルの手がニハルの拳を包んでいてくれていた事にも気付いた。
靴を脱ぐために、その手は離れる。
ニハルは、サダハルにお礼も言えなかった。
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