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ただいま、と言う声に三人は振り向く。
重そうなビニール袋を両手にぶら下げたジュウジと、その後ろに同じようなザントが居た。
おかえり〜、と二人の帰りを待ってたカイキ、ミドリ、メジロは労う。
「遅かったねー。もうおつまみ無いよ」
「そう思っていくらか買ってきた」
さっすがー!とミドリはジュウジのビニール袋を受け取った。
「それにしても遅かったじゃん。何かあったんか?」
カイキがチータラの袋を開けながらジュウジに問う。
「ああ……帰り道でお爺さんが倒れていて……」
その説明に待っていた三人は、あー、と声を揃えた。
「また倒れてたんか」
「ジュウジとザント二人で行くといつもじゃん」
「どんな強運だ?二人に何か取り憑いてるんじゃないか?」
言いたい放題だが、ジュウジとザントが道端に倒れた人を助けたのは両手で足りないくらいだから反論も出来ない。
兄貴が医大に通ってたからかな〜、とカイキは謎の分析をした。
しかし、真相はわからない。
「まあ、今回は手を貸してくれた奴が居たから早めになんとかできたが」
ジュウジが言い、三人は話を促した。
「手慣れていたから聞いたら、元看護師らしくてな。いや、それにしても綺麗な男だった。皇族の面影というか、気品が有ったな」
へえ?とミドリは変な声を出す。ジュウジがミドリ以外の人間を綺麗というのも珍しかった。
ザントもうんうんと頷く。
そんなに王子の様な男とは、どんな人間だったんだろう、と地べたで缶ビールを開ける三人は思った。
そう話題にされた最上イチナは、郊外の農地でくしゃみをする。
寒くなってきたし、風邪かな、などと考えた。
8.身体を飛ぶ蝶
最上ニハルは、一年前に見た光景を思い出していた。
快晴の空に花吹雪を舞わせ、ひらりとパンツドレスを翻す花嫁。
その手を取る花婿も、白いタキシードでいつも以上にかっこよかった。
灯された蝋燭や、鮮やかな料理に添えられたハーブなどの、細かな物までの色彩も覚えていた。
祝福の曲を弾くヴァイオリンや、誓いの言葉の声も。
兄従兄弟達の、ささやかな結婚式。
主役の笑顔が眩しくて、自分もこんな結婚式がしたいと思った。
恋焦がれたあの人と、あんな結婚式を。
でも、そんな願望は誰にも言えなかった。
ニハルは思い出す。
最上サダハルの、眩しい笑顔を。
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