対峙

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対峙

少し古いアパートの2階の部屋に着いた。 郵便受けに乱雑に突っ込まれたチラシや郵便物。いくつかはドアの前に落ちていた。 相楽くんは黙ってそのドアの前に立ち、長く息を吐くとキーリングの中から一つの鍵を手に取った。 鍵を開け、ドアを開くと据えた臭いがした。 相楽くんは一度私を見て、ゆっくりと中へと進んでいった。 1Kの間取り。狭いキッチンを抜け部屋に入って相楽くんの苦しみを知った。 1人の人間からこれだけの血が出るの?というくらいの血の跡。 メンズサイズの白いパーカーが血で茶色く染まっていた。 他にもリュックや、帽子、タオル、色々な物に血が付いて床に散らばっていた。 当時はきっと真っ赤だったと思う。 相楽くんはその凄惨な現場で彼女を介抱し、救急車を呼んだんだ。 お母さんの最期を思い出しながら。 相楽くんは血の跡を避けてズカズカと奥へ進みベッドの向こうの窓を全開にした。 そしてまた戻って今度は反対に当たる玄関を開け放った。 風が流れて部屋の空気が入れ替わっていく。 それでも部屋の物は変わらない。 テーブルに置かれたままの2つのカップ。 転がっているピアスとライター。 棚にある女物の香水。 並べられたカラフルなキャップ。 2人の生活の跡があちこちに残っていた。 血の跡を前に相楽くんと2人立ち尽くしていた。 なんと言ったらいいかわからない。 相楽くんはずっと硬い表情のままだった。 「アーイ。やっと戻って来たんだね。」 その声に相楽くんと2人同時に振り返ると吉井さんが立っていた。
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