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「アイの気持ちがわかるのは私だけ。アイもそれをわかってるはずよ。」
そう言い残し、吉井さんは部屋から出て行った。
私は相楽くんの後ろにいて、彼がどんな顔をしていたのかわからなかった。
「相楽くん…?」
「ごめんね。嫌な思いさせて。」
振り返った相楽くんは無理に笑って言った。
「今日はとりあえず、必要な物だけ持ち出して…」
平静を装う相楽くんは痛々しかった。
なんと声をかければいいのか、考えても私の中にある言葉ではどれも足りない気がした。
黒いリュックを掴むと、衣類や腕時計、本、カードケースと入れていく相楽くん。ただ目についた物を適当に入れてるようにも見えた。
「彼女の物はもう処分するよ。ゆうは受け取らなかったんだし。」
相楽くんは床に落ちていた紙袋を見てぼんやり言った。
「うん。それでいいと思う。」
私はその紙袋を拾って部屋の壁に立てかけた。
私たちは部屋を後にした。
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