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途中、キッチンに並んだ二人分の食器やお箸に晴海さんが目をやったのがわかった。
晴海さんは立ち止まり言った。
「これ、由貴さん宛の郵便物。いくつかまだ届いてたから。」
晴海さんから封筒の束を手渡された。
その時見えた彼の手に条件反射みたいに胸が締め付けられた。
「…ありがとう。住所変更の手続き全部したつもりだったんだけど。もしまた届いたら今度はまとめて着払いでここに送ってくれればいいから。」
私がそう言うと晴海さんは寂しそうに笑って言った。
「僕にはもう、会いたくない?」
「そういう訳じゃ…」
どう反応したらいいかわからない。
何故か強く拒絶できない。
もう彼を好きではないはずなのに。
「吉井さんがご両親と店に来たよ。正式に辞めることになった。実家に帰ると言っていた。」
「…そう。」
なんで彼女の動向を聞かされてるんだろう。
「ただ、吉井さんが最後に言ったことが気になって…」
「言ったこと?」
「由貴さんが若い男に騙されてるって。風俗に勤めるようなヤツだって聞いて、まさかと思ってここへ来た。」
「…っ。何言って…!」
晴海さんが吉井さんなんかの言葉を信じたことに対する怒りと、相楽くんを悪く言われて悔しい気持ちが一気に込み上げて言葉にならなかった。
晴海さんはキッチンの食器を一瞥し言った。
「本当なの?」
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