好きよ

1/10
148人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ

好きよ

晴海さんに会った日から、相楽くんは少しずつ変わっていった。 数日後、家に帰るとスーツ姿の相楽くんがいて驚いた。 「由貴さんおかえり!」 「相楽くん、どうしたの?スーツなんて…」 「今日午前中にアパートへ戻って持ってきたんだ。他にも結構片付けたり処分して、だいぶ荷物が減ったよ。大家さんと解約と退去の話もできたし。」 ひとりでアパートへ行って辛くなかったのかな… 少し心配になった。 それにしても… スーツ姿の相楽くん。まじまじと見てしまう。 普段はオーバーサイズな服装が多いから気づかないけどスーツになるとすごくスタイルがいいのがわかる。 手足が長くて、肩幅はあるのに腰は引き締まってる。 そんな私の視線に気づいた相楽くんは不安気に訊いてきた。 「…変かな?」 「変じゃない!すごくかっこいい。見惚れちゃってた…」 私がそう言うと相楽くんは珍しく恥ずかしそうにした。 「実は就活してるんだ。バルの仕事は結局バイトだし、正社員に空きはないから、オーナーに相談したら出入り業者の社長を紹介してくれて。イタリアのワインとか食品を輸入してる会社で、今日面接に行ってきたんだ。」 「…そうだったんだ。」 「俺、大学中退しちゃってるからさー。なかなか厳しくて。でもその会社に受かれば収入はかなり増えるし、夜や週末は由貴さんと一緒にいられるから。」 「相楽くん、受かるといいね。」 「ありがとう!」 スーツを着ていても相変わらずかわいい笑顔の相楽くん。 でも何故か私は喜べなかった。 相楽くんが私のために変わっていくことを何故か喜べなかった。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!